あこがれのアイドル

@nyoronyro

第1話

 私がアイドルという言葉を知ったのはいつだろう?

 テレビで見るだけの憧れは、年を重ねるごとに羨望として将来の夢に変わっていく。

 進路を決めるときに、親の反対を押し切り見せた一枚のオーディション用紙。

 必死の懇願に折れた両親に許可をもらい、一字一字心を込めて記入し応募する。


 アイドルを目指す大勢の応募者は、書類審査の段階で多数落ちて消えてしまう。

 心配だった私だが、後日に次の審査の日程が書かれた用紙が届いたことで、ほっと安心する。

 最初の難関を突破し、安堵こそすれ気を引き締める。

 その後何とか決勝の舞台に立てた私は、グランプリこそ取れなかったが、審査員の目に留まり、なんとか滑り込みで合格することが出来た。


 事務所に所属するため親元を離れ、素人同然だった私を待ち受けていたのは厳しいレッスンだった。

 歩き方一つとってみても知らなかったことばかりで、覚えることの多さに苦労する。

 先輩を追い抜き後輩には追い抜かされないよう、レッスン後も自主練に取り組み少しでも前に進もうと励む毎日。

 煌びやかな世界を作り上げるために隠された努力。

 

 そうしてアイドルの卵になったばかりの私に、テレビで見てたような仕事などあるはず無く、もう辞めたいと何度挫けそうになったか分からない。

 辛さを見せずに笑顔を作り魅せるうちに、私とアイドルという偶像の境界が曖昧になってくる。

 それでも我慢し耐え忍びながら子供の頃の夢に向かっていくうちに、ほんの少しずつ知名度が上がり固定ファンもできてきた。

 決して、順風満帆では無いだろう。

 けれど確かな満足と充実した毎日。

 夢が叶った日々も長くは続かなかった。


 


 働きすぎで倒れたのだろうか、気がつけば私は白い部屋にいた。

 医者のような恰好をしている人たちがこちらを見ながら会話をしている。

 『としては優秀だったな』

 彼らの話し声が聞こえるうちに、息苦しくなっていく。

 呼吸が荒くなると鼓動が速まっていく。

 心臓の音が、音が聴こえない?

 何故かを聞こうとしても声が出ない。

 動かない身体に伸びてるコード。

 繋がれてる先を見ずにはいられない。

 


 データ? 何を言ってるの?

 引き継ぐってナニ? ワカラナイ?

 ダッテ ワタシハアイドル……AIドル

 



 

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