アイドルは地球を救うかも知れない
クサバノカゲ
アイドルは地球を救うかも知れない
「あこがれとは何だ?」と、私に問いかける人がいた。
いま、闇に包まれたステージに、薄っすらといくつもの人影が浮かびあがる。
期待がざわめきとなって客席に満ちてゆく。
そして静かに流れはじめた
──ライブも中盤、
照明がステージを淡く照らして、現れる白いステージ衣装をまとった少女たち。しなやかなダンスと共に、美しい歌声が響きわたる。
徐々に盛り上がる
アイドル、
──本名、
ときに悲しく儚く、ときに激しく
実際、この曲の前と後では明らかに、ライブ会場の空気がはらんだ熱が違って思えた。
その熱気の中ですべてのセットリストを終え、アンコールとダブルアンコールも経て、ステージを捌けるぎりぎりまで彼女は客席にファンサを贈りまくっていた。
最後に焼き付いた、間違いなく私自身に向けられた彼女の
人の波のなかで、胸に温かく灯った感情を抱きしめる。
「なるほど、これがきみの報告にあった『あこがれ』という感情か」
唐突な声は右後方から掛けられた。正確にはただの声ではない。指向性の電磁波として放射された脳波を、脳内の電磁波受容体によって言語化する
「そうです
こちらも
右後方を歩く相手の姿は見えないが、その
──そんな。今日のライブが響かなかったのか?
「正直、音楽芸術としてはアルボ星系グリモンモの伝統歌唱に及びもつかない」
「……それは、そうでしょうね」
自身の羽根を楽器にしながら口腔と鼻孔と排泄口まで駆使して奏でるグリモンモ人。彼らの全宇宙レベルのパフォーマンスを引き合いに出されてはお手上げだ。グラミー賞歌手を何人連れてきても同じ、敵うわけがない。
だからこそ、私は一縷の望みを「あこがれ」に託した。しかし、やはりだめだったか。
大宇宙連合の庇護が得られなければ、あと99日以内にこの
「とは言えだ。確かにこの感情は極めて特殊なものだ。追加調査の必要性を認めよう」
「あ、ありがとうございます……!」
首の皮一枚、どうにかつながった。しかし今日のライブを見せてダメならもう、私に打つ手はない。
「──で、次はいつだ?」
「は?」
「次はいつ『あこがれ』を味わえるのか聞いている。更なる調査が必要だと言ったろう」
「ライブツアーは今日が最終日なので……いちばん早いのは、握手会でしょうか?」
「握手……会……? なんだ、それは」
「アイドルと握手して会話できるイベントです。ほんの数秒間ですが」
「は!? ……如月アトリと、直接か?」
そのとき、機械的だった彼の
「そうですね。アトリちゃんは今回はセンター効果もあって、もう枠が残ってないかも知れませんが」
「……ちなみにだが……二列目の右端にいた、髪をこう左右に垂らして……」
「ツインテールがトレードマークの双葉スズメちゃんですね! 抽選にはなりますが、彼女ならまだ行けそうです」
気のせいだろうか。右後方から「ヨシ!」という小さな声が聴こえたのは。
「……何としても、その機会を確保しろ」
続く
アイドルは地球を救うかも知れない クサバノカゲ @kusaba
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