周りにいる家臣達は大興奮だ。


「信長様!そこだぁ!」

「信勝様!負けるなぁ!」


 二人は土俵の真ん中でがっぷり四つとなった。

「はあ、はあ……信勝、強くなったな」

「はあ、はあ……兄上こそ、更に強くなってますね」

 信長がパワーでジリジリと土俵際に詰め寄る。

「でえぇぇぇ!」

 信勝は最後の力を振り絞り下手投げを繰り出す。

「おりゃあぁぁっ!」

 信長は腰を落として力を込め耐えきり、そのまま寄りきった。


「はあ、はあ……、さすが兄上、…完敗です」

 力を出し切った信勝は土俵の外で大の字となった。

「はあ、はあ……、信勝こそ……最後の投げは危なかったぞ」

 これで信長が跡継ぎになる事に誰も反対しなかった。

 信勝を応援していた勝家達もこの真剣勝負を目の当たりにして納得した。


「…兄上、私は負けたんだから家を出るよ

 対外的には謀反を起こして処刑した事にして下さい」

 相撲勝負とは言え、嫡男に反抗した事は謀反と言えなくもない。

「お前、家を出るって……、これからどうするんだ?」

「織田信勝の名は捨てて、自分磨きの旅に出るよ」

 こうは言ったが、負けた信勝は内心喜んでいた。

(兄上には悪いけど、私は自分の好きなように生きるんだ

 私は武芸には優れていないし、この戦乱の世に武士なんてやってたら命がいくらあっても足りないからね

 子供の頃の夢、芸術家になるんだ)

 手は抜いていないが、初めから負ける事が分かっていて勝負を仕掛けたのだ。

「…後、勝家達は織田家を思って言った事…

 許してやって下さい」

「そんな事は分かってるよ

 信勝、俺は必ずや戦乱の世を終わらせる…

 達者で暮らせよ!」


 翌日、信勝は荷物まとめ家を出た。

 その後、信勝は江戸で画家になったと噂が流れた。


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