第17話


ひなたはアホだ。恐らく俺が人生で出会ってきたどの女よりもアホだ。


とにかくひなたは小さな頃からアホで、そのアホさは親戚の中でも有名だった。



俺は俺より年上のこいつを、年上だと思ったことは只の一度も無い。


なぜなら冗談ではなく、本気でアホだからだ。



ガキの頃から、会う度こっちが好意を仄めかしているにも関わらず、これっぽっちも気が付かないアホ。


王子様みたいだから、とか訳の分からない理由で、よりにもよって俺の兄貴と付き合い始めたアホ。


付き合い始めたら始めたで、周りがドン引くくらいに兄貴に貢ぎまくったアホ。


死ぬほど傷付けられたのに、両家の話し合いの時にも「自分が悪いから」とか言って、ヘラヘラ笑ってるような救いようもないアホ。



でも、ひなたはアホだけど馬鹿ではない。


自分の駄目さを分かっていて、だから俺の気持ちも理解していて、それでも自分を変えられないからどうしようもなく落ち込んで、時々こんな風に心が折れてしまったように泣く。



"大切の仕方に正解はないよね?"


二年前、『大切の仕方』を理解できる日まで、結婚もしないし付き合いもしないと言った時、ひなたは俺にそう尋ねた。



ひなたの言う通りだ。


そんなもの人それぞれ違っていて当然だし、本来ならそうあるべきに決まっている。


でも、ひなたはアホだから気が付かない。



いくらひなたが頑張ろうと、そんなものの答えなんて何処にも在りやしないのだ。

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