第9話

「いや普通に付けるわ」



そう言って再びサイドテーブルに手を伸ばす陸くんの腕を、慌てて掴んだ。



「えええ?なぜに!?」


「ふざけんな。お前、今日ヤバい日だろうが」


「なんで知ってるの!?まさか私の月経周期を完璧に把握して……!?」


「アホか。二週間前に生理痛で死んでただろうが。つか手離せ」


「うわぁぁぁん付けなくても良いってば!」



しまいには陸くんの腕にぶら下がりながら必死に訴えかけると、陸くんが呆れ果てたような溜息を付いた。



「マジで何なんだよお前は?」


「だって、お仕事で疲れてる陸くんにえっちしてもらえるんだよ?ちょっとでも気持ちよくなってほしいよ」


「アホな事言ってんな。ガキ出来たら大変な思いするのはお前だろうが」


「大丈夫!陸くんのためならなんでもハッピーだから!」


「は?」


「陸くんに残りの人生全てを捧げる覚悟はとっくに出来ております!」



ビシッと敬礼をした瞬間、それまで苛立ちと困惑が浮かんでいた陸くんが、すっと無表情になった。


陸くんは脱ぎ捨ててあったトップスを手にすると、無言のままベッドから立ち上がった。



「え?え?どうしたの?」


「萎えた」


「え!?」



私を振り返ることもなく部屋の出口へ向かっていく陸くんを、私は急いで素っ裸のまま追いかける。



「ど、どこ行くの!?」


「今日ソファで寝る」


「なんで!?」


「お前がアホすぎて一緒に居たくねえ」



そんな死刑宣告のような言葉と共に、目の前でぴしゃりと扉が閉められた。

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