第6話
「陸く、」
そっと塞がれた。
陸くんのキスは無償の愛情みたいだ。パパとママが小さい子をぎゅっと抱き締めるみたいに、見返りもない、際限もない、どこまでも無条件な。
ふわふわのバスタオルに包まれた誓いのキスは、すぐに終わった。
魂まで食べられてしまったみたいに呆けていると、ふっ、と笑った陸くんがバスタオルの端っこを乱雑に下ろす。
陸くんの顔がタオルに隠されて、また私の視界は白一色に戻った。
私が慌ててバスタオルを頭から取り去った頃には、既に陸くんは洗濯物畳みを再開させていた。
「りっ……陸さま!?」
「誰だよ」
「もう1回!今のもう1回ください!プリィィィィズキスミィィィィ!」
「叫ぶな。近所迷惑だろうが」
窘められて、ハッと口を両手で覆う。肋骨を突き破ってくるんじゃないかってくらいに暴れまわっている心臓を落ち着けるために、ゆっくり深呼吸をした。
それから小さな声で、こそこそっと陸くんに囁いた。
「ねえねえ、もう1回して?」
「しない」
「なんで?」
「洗濯物畳んでんだろ」
「してくだせえよ、旦那」
「誰だよ」
「陸くんや、しておくれ」
「言い方変えても無駄」
「あと1回だけ……」
「早く寝ろ」
「ほんとにほんとに後1回だけ……」
「しつこい」
「……陸くん……」
「…………」
「…………」
「……あー……うるっせえ」
乱暴な言葉を吐いた唇の持ち主とは思えないくらいに頬を引き寄せた指が優しくて、一つ瞬きをする間に心臓がぎゅうっと苦しくなる。
陸くんは、いつも唇を右に傾けてくれるから好き。私も陸くんとキスする時は顔を右に傾けるから、まるで初めからぴったり合わさる事が決まっていたみたいに、唇と唇が綺麗にくっ付く。
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