第1章
第7話
「わたし、
あすかちゃんが、つむぎさんの彼女だったら、
どうしようって思ってましたからっ!」
!?
「っ!!!!」
「そ、そんな
「そんなわけ、ないんですよね!
やったぁっ!!」
……なんだろ、この素直な喜び方。
っていうか、ほんと、美人さんよな。
無防備な姿に嘘がないってことは、育ちがいいんだろう。
でも、だいたい一見そう見える人ほど、
二時間ドラマでは真の犯人だった
っ!?
「つ、つむぎ!
あ、あんた、
さ、さっさとこっち来なさいよっ!」
うぐっ。
わ、わりと腕力あるんだよ、朱夏。
*
「ど、どういうことなのよっ!
な、なんで、あんたが
エンクレーブ所属の美緒を知ってんのよっ!」
もう辞めてるんだけど、wikiには反映されてない。
公式発表は明後日だっけ?
さて、どうしたものか。
経緯が経緯だけに、説明できる箇所が一つもない。
「まぁ、偶然知り合ったって感じ。」
「ふ、ふざけないで!」
そこは完璧に真実なんだけどな。
それよりも。
「この喫茶店はまずかったと思うよ?
事務所外の関係者の人もいるし。」
「!
そ、そう、だけど……っ。
な、なんで、
よ、よりによって、なんで美緒なのよっ!」
なんでこんなこだわるかな。
「沢渡さんは、きみと、
どういう知り合いなの?」
「……敵よ。
仇敵っ。」
は?
あ、なんか、
急にめっちゃへこんだ顔になってる。
「……知ってる、でしょ。
あたし、9歳くらいから、
オーディションの役が、取れなくなってって。」
毒親と、標準演技理論に拘束されてしまったせい、か。
「……そんときに、
ぽっと出のあの娘に、役を取られたのよっ!
一度や二度じゃないわっ!」
……つまり、当時は役柄が被ってたってことだろう。
今だと、まったく違う役どころになるんだろうけど。
「許せない。
許せないっ、許せない、許せないっっ!!!」
……おおう、マジかよ。
そこまで憎んでるとは思わな
「……って、お母さまがよく言ってたわ……。」
ん?
「……。」
あれ、また黙っちゃった。
起伏が激しいなぁ。
「……あたしだって、自分の立場くらい、理解してるわ。
いまのあたしはただの端役。
あの娘は、ブルーブロンズを実力で獲った。
比べようもないくらい、差がついちゃったのよ。」
……本人は闇の力で獲ったって思ってるわけだが。
「きみから見て、ブルーブロンズの新人賞は順当だったの?」
「……まぁ、そうじゃないの。
東京映画記者会賞が
パウロニア・バウムの薫に行くのとバーター。
ブルーブロンズのほうが玄人受けする賞なのよ。
下北沢出身の地味なあの娘にはお似合いね。」
……素直じゃないコイツができる最大限の賛辞じゃんか。
なんだ、沢渡さん、やっぱり実力なんじゃん。
「って、そうじゃないわ!
なんで美緒をあんたが知ってるのよっ!」
あ、急に戻った。
めんどくさいから話を替えよう。
「そういえば、
きみにもマネージャーがついたんだって?」
「そ、そうよっ!
と、と、当然でしょ!」
あっさり転がった。
めっちゃ嬉しいんだろうなぁ。
いままで無視しかされてなかったから。
「ホームページの序列も更新されたわ!
写真つきよ、写真!」
……有象無象の扱いだったからな。
まぁ、それはそうだろうな。
完全にハレモノ扱い。
「劇団から声、かかったのよ!
凄いでしょ!」
彼女の基準からいえば名誉なことなんだろうけど。
「チケットノルマがついてるやつじゃないよね?」
「ぶっ!?!?
そ、そ、そんなわけないでしょ!!」
……やっぱりか。ほぼタダみたいなもんじゃねぇか。
まぁ、マネージャーさんが統制してくれるだろうけど、
どう転んでも5桁って代物じゃなぁ。
「きみ、わかってるよね?
親元から自立するためなんだからね?」
「わ、わ、わかってるわよっ!!」
……わかってないな。
「はやく婚約破棄したいんでしょ?」
「し、したいわっ!
あ、あんたの顔、な、なんて……」
ん?
「!
め、め、女々しい顔しないでっ!」
……悪かったなっ。
*
……はぁ。
なるほど、夜が長いわけだ。
広告代理店や放送局の幹部の主な仕事は、
大手企業や有力企業のスポンサーの接待だ。
そして、当然ながら企業関係者は18時まで正業を持っている。
大手企業の幹部ともなれば20時を超えるのは普通だ。
個別接待は22時から五月雨式になることも珍しくない。
そして、大手企業の幹部まで登るような人々は
体育会系が多く、飲みなれていて、無駄に武勇伝が多い。
ということは、25時なんて当たり前だし、
オールが日常茶飯事になっている。
なるほど、早死にする奴が絶えないわけだ。
まぁ、なんとか、話はついたわ。
っていうか、特殊法人の癖に、接待
……
?
あの若い金髪のオトコ、
どっかで見たことあるような……。
二時間ドラマだったかな? いや
「あら?」
ん?
なんていうか、可愛らしさと妖艶さを併せ持った人だな。
黒いドレスが煽情的なんだけど、上品さがある。
「間違ってたらごめんね。
きみって、いま噂の、明さんの秘蔵っ子?」
明さん?
……あぁ。
「弦巻さんにはお世話になっていますが、
その呼び名は聞いたこともないですね。」
「ふふ、嘘つき。
ウチの営業力で、
美緒を引き抜けるわけないじゃない。」
引き抜き、と見られてるわけか。
マネージャーさんまで辞めたんだもんな。恨まれてるわぁ…。
ん?
「貴方もツツジプロの方ですか?」
「あら。失礼しちゃう。
一応、ツツジの存続に貢献してるつもりなんだけどな。」
……
あっ!?!?
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