第9話 岐路と選択

 卒業が迫るにつれ、俺の胸の内は騒がしくなっていた。

 このまま公務員の道を歩むか、それとも……過去を捨て、富と名声を追い求めるか。


 ここが人生の分岐点だ。



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 2月も終わりに近づき、学校には進路の話が飛び交っていた。

 友人たちはそれぞれの未来に向けて準備を進めている。


 「お前、やっぱ公務員?」


 田中が聞いてくる。


 「まあな、一応……。」


 口ではそう答えたが、未だに決めかねていた。


 このまま役所に入り、未来の妻と結婚し、堅実な人生を歩むのか。

 それとも、すべてを捨てて未知の道を進むのか。



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 放課後、俺は氷川優奈と二人で歩いていた。


 「卒業まであと少しね。」


 「そうだな。」


 「……斉藤は、将来どうするの?」


 俺は少し考えた後、口を開いた。


 「公務員になるつもりだよ。」


 「ふーん。でも、本当は迷ってるんでしょ?」


 優奈は俺の目をじっと見つめた。


 「なんでそう思う?」


 「……なんとなく。」


 彼女の勘の鋭さには、相変わらず驚かされる。


 「もし、公務員にならなかったら?」


 「……おそらく、ビジネスの世界に飛び込むかな。」


 優奈は少し驚いたような顔をした。


 「そっちの方が、斉藤っぽいかもね。」



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 家に帰ると、ニュースで地下鉄サリン事件の話をしていた。

 平成7年3月――この時代は、決して平穏ではない。


 未来を知る俺は、この事件の行方も、その後の影響も知っている。

 この世界で何かを成し遂げるなら、こうした歴史の流れにも気を配らなければならない。



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 夜、ベッドに横になりながらスマホを見つめる。

 未来の情報は俺の手の中にある。


 「……公務員か、起業か。」


 どちらを選ぶべきか、未だに答えは出ない。


 そして、氷川優奈との関係も。


 彼女に惹かれつつある自分がいる。

 18歳の体が48歳の理性を揺さぶる。


 だが、もし俺が違う道を選べば、彼女とはもう交わらない可能性もある。


 俺は何を選ぶべきなのか。



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 答えの出ないまま、俺は目を閉じた。

 卒業は、すぐそこまで迫っている――。



---


 平成7年3月。卒業式。

 だが、俺にとってはただの通過点に過ぎない。


 すでに競馬で得た資金は十分にある。

 これからは、単に金を増やすだけではなく、名声を得るフェーズに入るべきだ。


 人々に名を知られ、影響力を持つ――そのために何をすべきか。

 その答えを、俺はすでに考えていた。



---


 卒業式が終わり、校門を出ようとしたとき、氷川優奈が俺を呼び止めた。


 「斉藤、ちょっと話せる?」


 俺は立ち止まり、優奈の顔を見た。


 「どうした?」


 「……卒業したら、どうするの?」


 俺は少し考えてから答えた。


 「起業する。」


 優奈は驚いたように目を丸くした。


 「えっ? 公務員でもなく会社に就職もしないの?」


 「俺は社会に縛られるつもりはない。これからの時代、自分で稼ぐのが一番確実だからな。」


 「ふーん……。」


 優奈は腕を組み、少し考え込んだ。


 「で、どんなビジネスをやるの?」


 「流行を作る。人々が欲しがるものを先に見つけて、商品化する。」


 「具体的には?」


 俺は未来の知識を活かしたいところだったが、さすがに「未来が見えている」とは言えない。


 そこで、あくまで“分析の結果”として話すことにした。


 「例えば、健康食品ブームがこれから本格化する。特に、若者向けの栄養補助食品は伸びるはずだ。」


 「健康食品? そんなの売れるの?」


 「売れる。芸能人やスポーツ選手を広告に使えば、一気に流行る。特に、プロテイン系の商品は数年後に爆発的に伸びる。」


 「……へぇ。結構考えてるんだね。」


 優奈は感心したように頷いた。


 「まぁね。これからの時代、企業に就職するだけが正解じゃない。自分の名前で稼ぐこともできる。」


 「……確かに。」


 優奈は少し寂しそうな表情を見せた。


 「私も大学に行って、経営の勉強をするつもり。でも、卒業したら普通に会社に就職するかな……。」


 「それも悪くない選択だ。」


 俺はそう答えたが、正直なところ、優奈は普通の会社員で終わる器ではないと思っていた。


 「……また、会えるかな?」


 優奈が不意にそう尋ねた。


 「さぁな。でも、もし俺が成功したら、名前くらいは聞くことになるかもしれない。」


 「……それ、ちょっと楽しみかも。」


 優奈は笑った。


 これが、彼女との最後の会話になるかもしれない。



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 優奈との別れを終え、俺は自分の部屋でこれからの計画を練った。


 すでに資金は数千万円規模に達している。

 しかし、単に金を持っているだけでは、社会的な影響力は得られない。


 名声を得るためには、時代の流れに乗った商品を開発し、人々の注目を集める必要がある。


 そこで、以下の戦略を立てた。


① ブームを先取りした商品開発

・健康食品市場への参入(プロテイン、栄養補助食品)

・ゲーム関連グッズ(これからPlayStationが大ヒットする)

・インターネット普及を見越したサービス展開


② 時代の象徴となる人物を活用

・有名になる前の芸能人やアスリートとコネクションを作る

・広告戦略として、影響力のある人物を巻き込む


③ メディア露出を狙う

・話題性のある商品を作り、テレビや雑誌で取り上げられるよう仕掛ける

・未来のヒット商品をあたかも“独自の分析”で見抜いたように発信する


④ 人脈を広げる

・これからの成功者たちと早いうちに接触し、関係を築く

・投資家や経営者とのコネクションを作り、次のビジネスチャンスを得る



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 まず、最初の一手として、プロテイン系の健康食品を開発することに決めた。


 当時の日本では、まだプロテインが一般的ではなかったが、アメリカではすでにフィットネスブームが始まっていた。

 ここに目をつけ、日本市場に持ち込めば、数年後の健康志向の高まりに乗れる。


 さらに、PlayStationの発売(1994年末)によるゲーム市場の拡大も狙い目だった。

 ゲーム関連の周辺機器や攻略情報など、周辺ビジネスの可能性は無限にある。


 そして、これらの商品を売るために、俺自身もメディアに出て名を売る。

 「若き起業家」として世間に認知されれば、さらに影響力が高まる。



---


 夜になり、俺は窓の外を見ながら考えた。


 未来の妻や家庭を捨てることになるのか?


 もしかしたら、俺はもう“前の人生”には戻れないかもしれない。


 それでも――


 俺は、この時代に生まれ変わった以上、過去の延長線上の人生を生きるつもりはない。


 名を上げ、社会を動かす存在になる。


 そしていつか、優奈と再会したとき、堂々と言えるように――


 「俺の名前を知らない人間はいない」と。

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