第5話 荒稼ぎ

 ——答えは出なかった。


 公務員を辞めるリスク、起業の難しさ、未来の家族のこと。どれもすぐに決断できるものではない。


 ならば、とりあえず今の道を進むしかない。


 公務員試験を受けて合格し、安定した立場を確保する。

 同時に、起業の準備を進め、いざとなればいつでも動けるようにする。


 そのために必要なのは、資金と知識だ。


 俺は競馬でさらに資金を増やし、公務員でも可能な投資——株式投資に手を出すことを決めた。


 ***


 高校生が株の口座を開けるのか?


 スマホで調べてみると、証券口座の開設には基本的に20歳以上の年齢制限がある。


 だが、一部の証券会社では親の同意があれば未成年口座を開設できることが分かった。


 ——親に頼むか?


 いや、それはリスクが高い。今の俺にとって、親は信用できる相手ではあるが、未来の知識を活かすには自由に動ける環境が必要だ。


 ならば、親族や知人を頼るか? それも危険だ。


 最善策は、まず競馬で十分な資金を作り、成人になったときに一気に投資を始めることだろう。


 「……それまでに、徹底的に勉強しておかないとな」


 スマホで株式投資の基礎、テクニカル分析、ファンダメンタル分析の情報を集める。


 公務員になれば、インサイダー取引などに気をつければ合法的に株を運用できる。


 つまり、「公務員+株式投資+起業準備」の三本柱で進むのが、最適な戦略だ。


 俺は競馬の次の大勝負に向けて、また準備を始めた——。


 ——もう、なりふり構っている場合じゃない。


 資金を増やすため、俺はオッズの大きい万馬券を狙うことにした。


 リスクは高いが、未来の知識がある俺にとっては単なる計算作業だ。勝率の高い馬、穴馬の動向、展開のクセ……平成の競馬データを総動員すれば、狙ったレースで確実に当てられる。


 数万円の小さな勝負では時間がかかりすぎる。一気に数十万円、いや100万円単位で稼ぐ。


 競馬新聞を持ち込み、スマホの情報を照らし合わせながら、最適な馬券を選び続けた。


 ***


 結果は——大勝ち。


 オッズ50倍、80倍、120倍の万馬券を次々と的中させ、たった数日で数百万円が手元に転がり込んだ。


 だが、問題が出てきた。


 ——現金の置き場がない。


 銀行に預けるのは危険すぎる。未成年がいきなり大金を入金すれば、不審に思われる可能性が高い。


 自宅に置くのもリスクがある。親に見つかれば、どこでそんな大金を手に入れたのか問い詰められるだろう。


 「どうする……?」


 金の隠し場所として考えられるのは——


1. 学校のロッカー(短期的にはアリだが安全ではない)

2. 貸金庫(未成年では契約できない)

3. 家の床下や天井裏(バレる可能性あり)

4. 信用できる知人に預ける(今は誰も信用できない)


 結局、一時的に俺は押し入れの奥、古い布団の間に札束を挟んで隠すことにした。


 これでしばらくは大丈夫だが、これ以上増やすなら本格的に資金管理を考えなければならない。


 「次の一手を考えないとな……」


 現金の置き場に困るくらいなら、金(ゴールド)に変えるのが一番合理的だ。


 場所を取らず、長期的に価値が上がる可能性も高い。


 未来の知識を考えれば、2000年代以降の金価格の上昇は確実だ。今のうちに買っておけば、20年後にはとんでもない資産になる。


 ただ、高校生が大量の金を買うのは難しい。


 まず調べたのは、金の購入方法だ。


 1. 銀行や証券会社の金投資口座(未成年は口座開設が難しい)

 2. 金の延べ棒を購入(バレずに保管するのが大変)

 3. 金貨を買う(小分けにできるので現実的)


 結論として、10g~100gの金地金や金貨を分散して買うのが最適だ。


 ***


 まず、競馬で得た資金の一部を手元に置きつつ、100万円分の金を購入することにした。


 金の売買をしている貴金属店を調べ、店頭での現金購入を選択。


 当時の金価格なら、100gの金を数十万円で買える。小さな延べ棒や金貨を複数購入し、学校のロッカーや家の隠し場所に分散して保管する。


 このやり方なら、万が一誰かに見つかっても、すべてを失うリスクは低い。


 さらに、資金が増えるたびに金を買い足し、少しずつ資産を移していく。


 現金を増やせるだけ増やし、最終的にすべて金に変える。


 「これならバレずに資産を築けるな……」


 公務員になっても、金は換金しやすいし、株のようにバレる心配も少ない。


 俺は計画を確実に進めるため、次の競馬の勝負に向けて準備を始めた——。

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