第14話 レプスの解体は春の寒さと共に
「クエストの報告をお願いしたい」
「かしこまりました。確認させていただきますね」
エレナと狩ったレプス10羽を買い取りカウンターへと提出する。
が、受付の天使の表情の戸惑いが現れる。
「こちらのクエストは、レプス肉のみの納品となるため、解体してお肉だけを納品していただく形となります。解体はお二人でなさいますか?」
あっ、ホントだ…。
「レストランからの依頼だから肉のみの納品でいいのか」
今の時間は13時すぎ、可能ならこのあと、もう1つクエストをこなしたい。
「エレナ、どうする?素早くできる自信がないからギルドに頼んで次のクエストに備えても良いかなと思うんだけど」
「うん……私もあまり得意じゃないから、今回はギルドにお願いしようか」
今回は見学だけでもしておけば、次に活かせるかもしれない。
「解体はギルドに頼んでもいいか?」
「かしこまりました。では、解体場でクエストの精算を行うよう手配いたします。このまま解体場へお願いします」
「わかった、ありがとう」
今日2度目となる冒険者ギルドの解体場へ向かう。
朝の俺と同じようにエレナもキョロキョロと目線がせわしなく動いている。
「これは、すごいね…。映画の世界みたいだね…」
確かに、魔法系の映画の研究室もこのように素材が綺麗に保管されているな。
「おう、陽也!もう、クエスト終わったのか!」
今日の朝、対応してくれたメヒエルが、再び俺たちの担当になった。
「メヒエルさん、こんにちは。レプスの解体をお願いしたいんだけど、作業の様子を見せてもらうことはできる?」
「おー、陽也。さっきぶりだな。もちろん構わんが、見ててもあんまり面白くねぇぞ?」
「解体のやり方が分からないから、学べればと思って」
「なるほどな。最初からそういえよ!よし、みっちり教え込んでやるよ」
メヒエルが魔物としてではなく、魔物の素材という観点で説明をしてくれる。この世界では、地球と違ってダニや寄生虫がいないらしく、そのぶん解体が楽らしい。魚1つとってもアニサキスなど注意が必要だったもんな。
基本的な説明が終わると、実演を交えた解説へと移っていく。話しながらでも手を止めることなく、メヒエルは慣れた手つきでレプスを解体していく。まずは関節の位置を確認し、皮を剥ぎやすいように腹部へナイフを滑らせる。
「こうやって関節の間を狙うとスムーズに切れる。適当にやるとナイフが骨に引っかかって素材が傷んでしまう」
「なるほど……」
皮を剥ぎ終えると、メヒエルは素早く内臓を取り出し、手早く作業を進めていく。10分もしないうちに10羽分全ての解体が完了した。
「早すぎるだろ…」
「慣れだ!慣れ!練習をしていくと、『解体』のスキルも手に入るからな!陽也も練習しとけよ」
解体にもスキルが存在するのか…。これは、また数をこなす必要がありそうだな…。
「ありがとう。次からは自分で試してみるよ」
「おう、まあ慣れりゃすぐできるさ」
「じゃあ、クエストの報告を終わらせよう。肉以外は買い取りでいいか?」
「買い取りで頼む」
「了解だ。計算するから少し待っててくれ」
魔物の解体を自分でできるようになれば、手数料がかからず利益も増える。だが、初めて見る魔物を相手にする場合は、まだまだメヒエルに頼ることになりそうだ。
「陽也、計算終わったぞ。クエスト報酬が500モネで、買い取り額から手数料を引いて200モネ、合計700モネだ」
「ありがとう。また頼むよ」
「おうよ。いつでも来な」
受け取った700モネのうち、半分の350モネをエレナに渡す。これで今日の宿代は確保できた。昼食をとりながら少し休憩を挟み、午後の狩りに備える。食事代を除いても半日で460モネの純利益となった。
「アクティブスキルの獲得はまだ早いかもな…」
昼食を取り終えた俺達は、ギルドの資料室でスキル一覧を読み込んでいた。
図書館では、全てのスキルの習得方法を調べることができる。一方、ギルドでは、冒険者に必要な生活魔法を始め、攻撃系のスキルの習得方法が記載された書物が数多く保管されている。
「パッシブスキルいいのある?」
パッシブスキルを探してくれていたエレナに声をかける。
「そうだね…。今日1日で習得できるものは、あんまりなさそうだね…。あるには、あるんだけど、持っていても仕方なさそうかな」
「ちなみにどういうのがあるんだ?」
「例えば、暑さ耐性とか着地とかかな」
暑さ耐性は、50℃以上の場所に1時間滞在すると習得可能。効果は、熱中症などになりにくくなる。火属性耐性とは、別だから純粋に夏に強くなるイメージだろうか。火山などに行く場合は、必要そうだ。
着地は、3メートル上から10回飛び降りると習得可能。効果は、10メートル程の高所から飛び降りても怪我なく着地する事ができる。
あれば、いざという時に便利だとは思うのだが――
「今じゃないな」
「だよね」
「ここは無難に数日かけて、アクティブスキルの習得を目指すか。スラッシュとカウンターが良いかな」
スラッシュは、動いている魔物に100回攻撃を当てる。カウンターは、魔物の物理攻撃と同時に攻撃を行い20回相殺する。共に戦いをする上で役に立ちそうだ。
「じゃあ、その2つを目指して一緒に狩りをしようか」
その後クエストを受けて、再びレプス狩りへと向かう。
「陽也!レプスを見つけたよ!」
「ナイス!」
レプスへと一気に距離を詰める。レプスの行動を観察しているうちにいつ攻撃を仕掛けてくるのか分かるようになった。メヒエルがレプスの筋肉の構造を解説してくれた影響も大きいだろう。
「来る!」
レプスが俺めがけて、攻撃を仕掛ける。半歩身体を引き、射線から外れつつレプスの軌道に合せるようにロングソードを水平に振り抜く。
「カキン!」
硬質なレプスの角とロングソードが接触し、甲高い音が鳴り響く。音に少し遅れて、両腕に痺れのような衝撃が走る。どうにか、ロングソードを落とさないようにしっかりと握り直す。しかし、レプスの攻撃の威力を相殺仕切れずに俺のロングソードは、後ろへと押し込まれてしまう。
「相変わらず、高火力だな…」
「私に任せて!」
俺のロングソードとの接触で減速し、空中で無防備になったレプスの首元にエレナがショートソードを振り上げる。短剣術中級の効果なのか、エレナの攻撃は俺と比べかなりの精度を誇っている。
その後、カウンターの習得を目指しつつ狩りを進めたが、結局は1度も成功することはなかった。
「やっぱり、スキル習得は難しいね…」
「そうだな…。ゲームでは、経験値を使って勝手に覚えられたのにな」
「あれは、ゲームならではのご都合主義だったんだね。クエストも達成したし、今日はこの辺で切り上げようか…」
「そうだな。今日1日ありがとうな。このままパーティーを組んでいてもいいか?不都合があるなら抜けてくれても良いが…」
中級の腕前があるエレナからすれば俺の攻撃は、かなり精度の低いものに見えるだろう。もっと能力の高い冒険者ともやって行けそうな気がする。
「こちらこそありがとう。陽也と一緒だと狩りやすかったし、私からもパーティーをお願いしたいな。明日からもよろしくね」
「ホントに良いのか!俺は、エレナみたいに中級スキルを使えないが」
「そんなの些細な差だよ。能力よりも連携をしやすいかが重要かな?特に地球でのことを考えると…」
どこか寂しそうにエレナがつぶやく。どこか寂しそうな雰囲気が彼女を覆っており、地球で何かがあったのは明白だろう…。
「ごめんごめん!昔を思い出しちゃった!気にしないで!でも、本当に陽也とは狩りをしやすかったから、このまま一緒にがんばろ!」
地球での悩みを共有できるように関係を深めていけば良いか。今すぐ距離感を詰める必要はない。だが、エレナなりに地球での心の傷を乗り越え、俺を信じてくれているのだろう。その期待を裏切らないように俺は、精進を続けるしかない。
まずは、2つのスキルの習得か。
「じゃあ、また明日もよろしく!」
エレナとクエストの報告を終え、それぞれの宿へと別れる。1人になると夜の冷たい空気が肌を刺す。昨日は、気にならなかったが今日はやけに冷たく感じる。
道の両側では、宿の明かりがちらちらと揺れ、どこか遠くで誰かの笑い声が聞こえる。1人を寂しいと感じるのはいつぶりだろうか。
「さて、明日に備えるか」
静かにそう呟きながら、宿の扉を開けた。
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