第21話:調合師の真価

調合師ギルドの壊滅から一ヶ月が経過した。和也は新宿ダンジョンギルドで通常業務に戻っていたが、彼の立場は大きく変わっていた。


「佐藤主任、この調合報告書の確認をお願いします」


小林が丁寧に書類を差し出した。


「ありがとう、見ておくよ」


和也は微笑んで書類を受け取った。潜入任務の功績により、彼は調合部門の主任に昇格したのだ。


「それにしても、最近平和ですね」


田中が作業をしながら言った。彼女も特別訓練の成果を認められ、新宿支部に正式配属されていた。


「ああ、『赤い薬』の流通も止まったし、被害報告も減ってきた」


和也はうなずいた。しかし、彼の心には引っかかる点があった。


調合師ギルドの施設から押収された資料を調べる中で、和也はある事実を知ったのだ。リーダーが言っていた「ダンジョンコア」は実在し、彼らはその一部を入手していたということを。


しかし、そのコアの断片はギルドの急襲時に見つからなかった。どこかに隠されたのか、それとも...


「佐藤さん、ちょっとよろしいですか」


綾小路が調合室に入ってきた。


「本部からの連絡です。山本さんがあなたに会いたいとのこと」


「山本さんが?」


「ええ。明日、本部に来てほしいそうです」


和也は少し緊張した。山本から直接の呼び出しは初めてだ。


「わかりました。明日、伺います」


翌日、和也は東京ダンジョンギルド本部を訪れた。山本の執務室に案内されると、そこには山本だけでなく、数人の上級ギルド職員が集まっていた。


「佐藤さん、来てくれてありがとう」


山本が和也を迎えた。


「今日は重要な話があります。座ってください」


和也が席に着くと、山本は真剣な表情で切り出した。


「調合師ギルドの事件後、我々は彼らの研究データを詳細に分析しました。その結果、彼らの研究には...一定の科学的根拠があることがわかったのです」


和也は驚いた。


「彼らの方法は危険で倫理に反するものでしたが、『ダンジョンの力を人間が制御する』という基本概念自体は、不可能ではないかもしれません」


山本はテーブルの上に資料を広げた。


「これは彼らの研究の中で、最も安全性が高いと判断されたプロトコルです。『調和調合』と呼ばれる方法で、人体を傷つけることなくダンジョンの力を活用する技術です」


和也は資料に目を通した。それは佐々木の調合書にも記されていた概念に近いものだった。


「我々は公式にこの研究を続行することを決定しました。そして、その責任者としてあなたを任命したいと思います」


「私を...?」


「ええ。あなたは調合師としての才能だけでなく、倫理観も持ち合わせています。危険な道に進まず、安全な方法を追求できる人物だと判断しました」


和也は言葉を失った。これは予想外の展開だった。


「『調和調合研究所』という新しい部門を設立します。あなたには所長として、研究チームを率いていただきたい」


山本は和也の返答を待った。


和也は深く考えた。調合師ギルドの目指した道は危険だったが、その根底にある概念自体は、正しく扱えば人類の役に立つ可能性がある。


「お受けします。ただし、一つ条件があります」


「なんでしょう?」


「研究の全過程を公開し、常に外部の審査を受けること。二度と秘密裏に危険な研究が進まないようにするためです」


山本は満足げに微笑んだ。


「その条件、喜んで受け入れます。それこそが我々の望む姿勢です」

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