めんどくさい上司【KAC20252】

神美(kanmi)

第1話

 あーめんどくさい。


 それは目の前でデスクに突っ伏して両腕を伸ばし、頭は今日の強風もあってボサボサ。ネクタイを取ったからシャツはヨレヨレ。

 定時も過ぎた事できれいだったアゴのラインに見事な無精髭の芽生えを見せる上司の口癖だ。


「めんどくさい……細かいよな、ホント」


 上司は、さらに上からの指示で企画書を見直している。上司は中間管理職。

『上と下のちょうど真ん中。間に挟まれて一番めんどくさい立場なんだぞ』と、いつか言っていた。

 確かに彼はいつ見ていても、めんどくさそうだ。上からはチマチマ小言を言われ、自分を含む下からは様々な相談事や悩み、報連相を受け取り、それをさばく。


「あーめんどくさい」


 そしていつもボヤく。いつもそうだから彼は周りからボヤき課長と言われている。


「お、今日もボヤき課長がボヤいてるな」


 デスクに突っ伏しているボヤき部長に、ニヤニヤ顔で声をかけたのは彼と同じ立場である、もう一人の課長だ。スラッとしたイケメン課長、彼はそう呼ばれている。

 イケメン課長はジャケットを羽織り、すでに退社できる姿だ。


「そんな仕事、他の奴らに任せればいいじゃん。みんなやる気あるんだし。そんなだからお前がいつも残業ばっかして出会いもないんだよ」


 ボヤき課長とイケメン課長は仲は良いらしい。お互いに普段から言いたいことを言い合っている。


「うるせー。めんどくさいからさっさとお前は帰れよ」


 ボヤき課長に追い立てられ、イケメン課長は「はいはい」と退散する。モテるイケメン課長はきっとこの後は飲み会だ、華金だし。


「あーめんどくさい……っと、お前も帰れよ。もう退勤時間だ」


 企画書を前に大あくびをしながら、ボヤき課長は言った。目の前には企画書が大量だ。


「課長はまだ帰らないんですか?」


「はは、見ての通りだ。めんどくさいもんが俺を待ってる」


 めんどくさい。

 聞くと周りも嫌になる言葉だ。

 けれど――。


「めんどくさいのに、なぜ課長はいつもちゃんとやるんですか?」


 たまにはサボればいい。みんながそう言う。


「……めんどくさいけど、好きだからかなぁ」


 ボヤき課長は今日もボヤく。

 めんどくさい。


「ふふ、手伝っていいですか?」


 めんどくさい。

 けれど手伝いたくなる。

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