頂上決戦
炎の波が瞬く間に広がった。
魔力のせいかも、熱さなんて感じない。
吹き飛んだ衝撃で壁が抉れ、大きな窪みが出来上がってしまう。
足元には煤が飛散している。
もくもくと砂煙が舞い、どうなってるのか私にも分からない。
カイル兄さんを、殺してしまった?
両膝から崩れ落ち、魔剣が、カラン、と手からすり抜けていく。
「勇者様!」
観客席から届いた、カイル兄さんを呼ぶ女性の声。
勇者一行って言ってたから、カイル兄さんと旅をしてる仲間だろうか。
見上げると、兎の耳を垂らした長髪の女性が胸に手を添え、どこか見覚えのあるルビーの瞳がハッキリと分かった。
エリアに、似ている。でも、ちょっと違う。
「しっかりしやがれ! てめぇが世界を救うって豪語したんだろ!! 世界を救うまで死ぬんじゃねぇぞ!!!!」
大柄で逞しい筋肉を見せつける袖のない服を着た男も荒っぽい声で叫んだ。
後ろに大きな斧を背負い、バンダナを巻いている。
一段後ろの席には、ローブを身に纏う丸メガネをかけた細身の男がいた。冷静にこの状況を見守り、何も言わない。
「カイル兄さん……ご、めん、私が、勇者なんか、憧れたから」
勝てる、勝てると、魔王なんか大したことないって遠回りに言い聞かせてきたけど、どこかでカイル兄さんに勝ちたくないなって、思ってた。
だって、カイル兄さんに一度も勝てたことがないから――。
「これは余興か?」
鋭く冷めた声色が響いた。
玉座で優雅に脚を組み、怠惰に頬杖をつく女神アレイアが初めて喋った。
傍に立つ、大柄の魔物で闘技場の支配人であるフリッツが答える。
「まさか、れっきとした頂上決戦だ。勇者と、魔王の――」
砂煙が突然風によって払いのけられ、踏ん張らないと飛ばされてしまうぐらいの強風が起こる。
潔白の剣が、発光して見えた。
呼応するかのように、魔剣が黒い靄を纏う。
金属の足音。
「あ――」
「マリィ……」
傷ひとつもない鎧に、王都の紋章が描かれたマント。
爽やかな眼差しが私を優しく見つめている。
静まり返っていた闘技場内に建物を揺らすほどの歓声が、戻ってきた。
「カイル兄さん!」
「僕は相手が大切な家族だとしても、負けられない。大切な仲間のため、未来のために戦う!」
揺るがない強さを目の当たりにして、どういうわけか私は、笑ってしまう。
目が滲んでしまう。
女神に選ばれた憧れの勇者が目の前にいるんだから、感動してる。
「やっぱり、カイル兄さんは凄いんだ!!」
魔剣を握りしめ、稽古の時と同じように構えた。
鳴りやまない大歓声のなか、再び剣を交える――――。
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