ご対面
「彼女は英雄だぁああ!」
ギルドの町で、高らかにラッパの音が鳴る。
崩れた家々と時計塔のことは一旦置いといて、みんなが私のことを英雄と呼び始めた。もう英雄認定されちゃったや、早すぎてびっくり。
大勢のギルド関係者が私を囲む。
「あんな巨大なトロールを、魔法と剣を合わせた技で倒すとは……」
「騎士協会から勲章を!」
「いーや、魔術協会が代表してゴールドと栄誉を!!」
騎士協会と魔術協会が睨み合ってる。
素直に喜べない、黒い影の魔物と私のせいで、何人かギルドの人員が死んじゃってるんだから……まさかこんな規格外の魔物を出してくるなんて、予想できなかった。
「マリィさん」
たくさんいるなか、兎の耳がぴょこっと飛び出してるのが見えた。
「エリアっ」
こんな堅苦しい状況から抜け出したかったのと、会う約束をしていたから、エリアのもとへ、勢いよく飛び出す。
「あぁ英雄殿! どちらへっ!」
「ゴールドだけ貰ってく、さっさと町の修理したほうがいいよ!」
ギルド関係者に手をひらひら振って、退散する――。
——エリアの家に戻って一息つく。
「あー助かったぁ!」
「本当に無事でよかった……」
兎の耳がぴょこぴょこ動いてる。
ルビー色の瞳は、安心と不安で揺らぐ。
「言ったでしょ、大丈夫だって。私強いからさ」
「強いのは十分伝わりました。それでも心配します」
「分かったって、よーし、こんな大きな町で英雄って呼ばれたら名声も広がるでしょ。さてさて……勇者を追わなきゃね」
今も魔王封印を目指して旅しているカイル兄さんの背中を追うの、億劫になってきた。
憧れだけじゃ、駄目なんじゃないかって、女神がカイル兄さんを選んだのは、正しいことなんだ。
けど、無関係の人が亡くなって、後戻りできないことも実感する。
『予想以上に速い出世だ、マリィ――ギルドの町は世界中に名を広げるだろう。闘技場へ向かうのだ』
どこにいるか分からないけど、はっきり暗いもやもやした影の声が聞こえてきた。
「闘技場?」
『エリアの寝室にある転移魔法陣に乗るのだ』
闘技場ってどこよ。
「マリィさん?」
傾げるエリアに、別れの言葉を告げる。
「エリア、今度こそ行かなきゃ。短い時間だったけど、ご飯とお風呂ありがと。はいゴールドあげる」
「えぇ!? こんな大金受け取れませんよ!」
「いいからいいから、私他にやることあるから」
「うぅ、マリィさん、あのありがとうございます……あの、勇者になると仰ってましたよね。でも、勇者は既に」
「知ってる。ずっと女神に選ばれるって信じて、憧れてたんだ。でも、選ばれなかった。名声を上げて、勇者を倒して、力づくで女神に選ばれてやるって決めたの。そんで、魔王を封印どころか二度と目覚めないようぶっ倒す」
これからも、誰かが犠牲になるなら、絶対やらないといけない。
「マリィさん……ワタシ、応援します。きっとマリィさんならできると信じてます。だって、強さを知ってますから」
「ありがと、じゃ、エリア元気でね」
「はい、マリィさんこそ」
握手を交わし、魔法陣に乗る。
同時に、扉が叩かれた。
『エリアさん! エリアさん! マリィ殿はいらっしゃいますか?!』
魔術協会の、あいつらの声だ。
『転移先は――闘技場島——』
青白い光が私を囲む。
『マリィ殿の魔力を調べてさせてほしいのです! 人間ではあ――』
目の前が真っ暗になって、話も聞こえなくなった。
真っ暗闇の中、宙を素早く流れている感覚。
これでもかと濃い魔力が、私の肌に張り付いてくる。気持ち悪いのに、馴染む。
「マリィ、マリィ――起きるのだ」
低い声が呼んでくる。
遠くから流れる水の擦り合う音が聞こえてきた。
しょっぱい、匂いっていうか独特な感じで、いつの間にか閉じていた目に薄明かりと人影が映る。
「んんーだ、だれ?」
気怠い。何時間か寝たあとの、重い感じがする。
「我は魔王の力によって生まれた魔物である。貴様をここまで導いた者だ」
「——えっ?」
牙が鋭い、下の牙が口からはみ出て、全体的に四角い輪郭と、人間的な体格。
黒いぴっちりした高級そうな服を着て、首元に赤いリボンをつけている。
眉間に皴を寄せて、険しい顔。
「……えっ、うぇ、うそ」
「貴様とこうも早く顔を合わせるとはな、マリィ、貴様の実力は我の予想を超える。魔法と武器を融合させて、あのトロールを消滅させるとは……被害も最小限であること、実に興味深く、知識欲が満たされていく。我は絶海の闘技場の支配人である」
一気に気怠さが消えていく。
あまりにも突然な出来事に、理解が追いかないんだけど……どうなってるの、闘技場の支配人? なんで闘技場なの?
「愛しのマリィ、もうすぐ勇者一行がこの闘技場にやってくる……さぁ準備をしよう――」
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