第33話 勝手に入った家から逃げられるか?

 どうしよう。雪絵さんの関係の人たちかなあ。

俺たちって、完全に不法侵入というか泥棒にしか見えないよなあ。

隠れるか?逃げるか?謝るか?謝れば済むのか?

「大君こっち。」

藤井は古いトイレ跡に隠れていた。

「鍵かけてくれば良かったな。」

「失敗したあ。」

だが、家に入ってくる気配はなかった。

ザッザッザッザッ

足音は家と蔵の間を抜け、家の北側で止まった。

古いトイレの板1枚向こうは外だ。内容まではわからないが、話声が聞こえる。

そのうちバタバタ、バキッと聞こえ、ちょっと経つと静かになった。


「大君、見に行く?」

「いいや、逃げる。」


そおっと歩いて、そおっと玄関を開けて、閉めて、またそおっと歩いて

崩れかけた門をくぐった時、庭に停めてある車から人が出て来た。

「誰だ!おーい、誰かいるぞー。」

大声で叫ばれてしまった。

大地と藤井は慌てて走りだしたが、後ろから複数人が追ってくる。

「大君、バラバラに逃げよう。後で小屋に集合。」


必死で逃げて、小一時間も隠れていたろうか。

もう大丈夫だろうと小屋へ行ってみた。藤井さんはまだかなあ。

大地は、車があるはずの小屋の戸を開けると、そこに車はなく、

口にガムテープを貼られ、手足もガムテープでグルグルに巻かれた藤井が

体育座りしていた。

「藤井さん!大丈夫?」

「大地君だね?中に入りな。」


奥にあと2人いた。目出し帽に軍手。本能は大地に逃げろと言っているが、

そんな訳にはいかなかった。

「君らあそこで何してたの。」

「配信用の動画を撮ってました。」

「見せろ。」

「手に持って逃げてたから落としちゃって。」

実は八谷から言われていたのだ。

『誰かに見つかったりしたら、スマホはそのリュックごとどこかへ隠せ。

GPSがついてるから、後で拾う。』

だからスマホは山の中だ。

大地と藤井の体をざっと調べると、目出し帽の男たちは一応信じたようだった。

「場所変えるよ。」

だそうだ。

目と口にガムテープを貼られ、両手も背中側でガムテープを巻かれてしまった。

車に乗せられ10分ほど走っただろうか。

車から降ろされると、家の中らしい所に連れていかれ、ちゃんと椅子に座らされた。

「騒いだら殺すからな。」

口からガムテープがはがされた。

おばあさんの声で

「2人とも桂子の息子か。」

「あ、はい。」

「娘はいないのか。」

「男3人です。」

と藤井が答えた。

「桂子に電話しろ。」

「それが、母さん、離婚届け置いて家から出ちゃって、今連絡つかないんですよ。」

「え。」

おばあさんは素の声で驚いていた。が、すぐに気を取り直した。

「桂子は力が使えたんだな。」

「力ってあの動画のやつですか?」

「聞いてないのか。まあ、息子しかいないんじゃしょうがないか。」

「あの~出来れば教えて欲しいんですが。」

藤井がそう言ったので、大地も思い切って言ってみた。

「あの~母がですね。あの呪いみたいなやつ。かけ方は知ってたけど、解き方はわからないって言うんですよ。知ってたら教えてもらえますかね。」

「聞いてどうする。」

「それがですね。あの。呪い?を掛けられた宗教団体で集団ヒステリーみたいな発作が起きちゃって。弟が崖から落ちる動画は見ましたか?弟あれでちょっと怪我して、

教団関連の病院に入院してるんですけど。呪いの解き方と弟を交換することになってて。」

「知ってますか?」

藤井が心なしか楽しそうに口を挟んだ。

「桂子が来たら教えてやる。」

ちょっと間をあけて、男が言った。

「明日また来る。」

そう言ってみんな出て行った。人数は3人のようだった。


 手のガムテープは指先まではくるまれていなかった。

それで大地と藤井は何とかガムテープを剥がすことが出来た。

部屋は地下室なのか窓がなく、当たり前だがドアは開かない。

だが、トイレも洗面台もあって、寝られるようにかマットレスまで置いてあった。

「あーあ、動画撮りたかったなあ。」

「藤井さん、あんた病気だよ。」

「ついにあんた呼ばわりか。」

「なんでそんなに陽気なの?見るからに、いや見てないけど、聞くからに?ヤバい人達だったのに。あれ見ちゃうと教団の人達が善良に思えるよ。」

「でもさ、俺らに顔を見せないんだから、殺されたりはなさそうじゃない?」

「あ、そうか。」

「マットレスまであって、ちょっと優しくない?」

「それは俺も思った。」

「寝るか。」

「うん。」

電気を消すと自分が疲れているのが良くわかった。


「腹減ったね。」

「うん。」

「そのうち八谷さんが助けてくれるよ。」

「うん。」

「連絡がなければ大君のお父さんが警察に届けてくれるだろうし。

あ、あと関口もいる。あいつは仕事が出来るからきっと大丈夫だよ。」

「・・・・」

「大君?なんだ寝てんのか。図太い神経だな。いいや、おやすみ。」


藤井は大地よりは人の話を覚えているタイプだ。

大君はほんとに人の話を聞いてないな。

八谷さん、言ってたじゃないか。

桂子さんは顔と名前が分らないと呪いをかけられないんだろうって。

あいつらはそれを知ってて目出し帽をかぶっているんだろうな。

プロの犯罪者じゃあなさそうだけど、桂子さんが言うところの危ない親戚で間違いなさそうだな。

俺も寝るか。なんとかなんだろ。






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