ヒマワリとポリネーター

シンシア

「引」

 真っ黄色。日の光を浴びて顔をあげるそれの群れ。項垂れた頭の中、一際凛と伸びた特に輝かしく、暖かなその一つに惹かれる。


それはもはや、暖かを優に通り越した灼熱を一身に受けていた。ボクは想像する。あの向日葵の花粉を持ち帰る自分の姿を。


そして、それが叶わぬ願いであることも同時に理解する。ボクの小さすぎる体にちょんと生えた羽ではあの光を受けることはできない。


それなのに、どうしてあんなにも魅力的に見えてしまうのだろうか。思考全てを使ってあの向日葵のことを想いたい。


ただ真っ直ぐに伸び、すらりとした体。そこから生えた小ぶりな手。そして、熱そうな顔一つ見せないあの晴れやかで暖かな顔。


 君へ近づくほどに体はどんどん熱くなる。当たり前だ。途轍もない日の光がここら一体に差し込んでいる。温度には敏感なボクだからこそ、こんなにも君は煌めいて見える。君に惹かれてしまう。ほら、君の仲間たちはボクを歓迎してくれているみたい。丁寧にお辞儀なんかしちゃってさ。


 焦げる匂いがする。ボクが焦げているのか、それとも回りの君の──。


 連なった茶色の何かによって行手を遮られた。シューと煙を立てながら倒れ込む植物の数々がそこにはあった。少し高度を上げれば、飛び越えられる高さの低いハードル。こんなものは何の障害にもならないはずだ。しかし、思考とは裏腹に体が動かなかった。


 ──立ち入り禁止。


 その植物たちはボクに最後の警告をしているようだった。まるで、ボクが君に会うと不幸になるとでも言いたいようだった。


君に触れることを想像するだけで、煩いぐらいに心臓が高鳴る。ボクは不幸どころか死を覚悟して君に会おうとしているのだ。植物たちの警告を蹴散らすように高度を上げた。


 悲鳴どころか煙を上げ続ける自分の体を無視して、君の元へ急ぐ。不思議と体は熱くなくなり始めた。君に触れることを考える自分の体の方が何十倍も熱いからだろうか。もうすぐで綺麗な君の元に辿り着く。


 眼前には君の綺麗──。


 ボクの目の前には、綺麗な君の姿なんて一つもなかった。ゾッとするような威圧感と不快感を放つ君の姿があった。そして、あの植物たちの警告の意味を知る。


「憧れにつき、立ち入り禁止」

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ヒマワリとポリネーター シンシア @syndy_ataru

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