ドラゴンベイン

アチャレッド

ヤマト支部編

ジークフリート:ヤマト支部

第1話「ジークフリート:ヤマト支部①」

 西暦二〇三五年。ブラジル、アマゾン川の奥地の森。

とある撮影スタッフが捉えた映像に世界は震撼した。

 撮影された映像には世界中のほとんどの人が知っている超常の存在“ドラゴン”が映っており、そこから数日経った頃には世界のあちこちでドラゴンの存在は確認される。


 一年経ち二〇三六年。人口は半分を下回り、ドラゴンに支配された事への戒めから“竜暦”と呼ばれ始める。


 二〇四二年。いち早くドラゴンの巣窟と化したアメリカ、ワシントン州シアトルへ同国大統領の苦渋の決断により核ミサイルが発射させる────が更地となった街でドラゴンが走り回る姿が確認された。


 二〇四五年。世界的人気アーティストがドラゴンに殺されるという衝撃的なニュースが巡り、この年の自殺者総数は有史以来最多となる。


 二〇七〇年。ドイツが世界初、小型のドラゴンを捕らえる事に成功。これにより人類は初めてドラゴンの生態を調べる事が可能に。しかし同年、ブラジルにて超大型のドラゴンが発見され人口は更に半分へと減少した。


 二一〇〇年。中国の少年がドラゴンの死骸の顎を使い小型のドラゴンを捕殺した動画が世界中で配信される。しかしドラゴンの血を飲みドラゴンになってしまうというショッキングな映像となった。


 二一〇五年。アメリカ軍はドラゴンの死骸を使い新型の兵器を製作。軍人二十人の命と引き換えながらも中型のドラゴンの討伐に成功。


 二一〇六年。複数生産されたドラゴン討伐兵器を使用していた軍人が数名ドラゴンに変容。通常の人間ではドラゴン討伐兵器は扱えないという事が判明した。


 二一二五年。日本人の少女がドラゴンの血液から特殊な血清を発明。アメリカの軍人が初めてこの血清を摂取し、人類初の【ドラゴンの血液を含んだ人間】が生まれる。

同年、その軍人は単独でドラゴンを討伐。人類は九〇年の時を経てドラゴンと戦う力を手にした。


二一二六年。アメリカ政府を中心としたドラゴン討伐組織“ジークフリート”が世界各地で発足。人類はドラゴンとの戦いを始めたのだった─────。


 時は過ぎ現代────西暦二一三五年改め、竜暦百年。

世界の人口は最盛期の一割程となっていた──────。











 お手製の巻きタバコに火を付けて息と共に白い煙を吐く。

ついでにため息も吐いた。


「あぁ〜……めんどくさいな〜…」


 明らかに何かを嫌がっている一人の少女。

彼女の名前は“桜木 竜姫サクラギ タツキ”。

長い黒髪に白い肌の端正な顔立ち。白いシャツに黒のサスペンダーを着けた風貌は現代では目を引く。

 何せ辺りはドラゴン・・・・が蔓延っているというのに特殊な戦闘服を纏っていないのだから。

 そんな竜姫のタバコに怪訝な顔で近づく男がいた。


「タツキ。俺の前でタバコを吸うな」


 彼の名前は“梅澤 正義ウメザワ マサヨシ”。きっちり着こなした黒の戦闘服が板についている。

 梅澤の表情に竜姫はケタケタと笑って再度煙を吹かした。


「あたしカンケーないもん。しゅりゅーえんとか」

「副流煙が俺に関係あるんだ」


 喫煙者と嫌煙者の終わりの無さそうな会話に梅澤はため息をついて手持ちのデバイスに視線を落とす。


「………迎えはもうすぐだな」

「早くシャワー浴びたいなー」


 二人が少し雑談をしていると遠方から迎えのヘリの音が耳に入った。

梅澤は自分達の場所が分かるようにデバイスの光を点滅させる。

歳若いながらも既に手慣れた手つきだ。

 近くの広い地点でヘリを降ろすと数人の作業員が回収用のボックスを持って走ってくる。

竜姫も跳躍して先ほどまで座っていた山から降りて迎えのヘリへと向かった。

 しかしヘラヘラと歩く竜姫に梅澤は慣れているが作業員は未だに慣れない様相で驚いている。

作業員達の目を引くのは竜姫の美顔───ではなく先ほどまで座り込んでいた場所だ。

 そこには十数体の小型ドラゴンが積み重なり死骸の山を作っているのだから見慣れよう筈もない。

 というのも時は遡り百年前、突如現れたドラゴンを小型種といえどこれほど大量に倒せる人間はいなかった。

そもそもドラゴンを人間側が倒せるようになったのもここ十数年の話だ。

それを極東の島国の齢十九歳の少女がやってしまったのだ。

 羨望よりも畏怖が勝ってしまう。

 だが天才というものは得てして他者に惑わされる事はないのか。

竜姫は視線など気にする事無くヘリに乗り込んだ。

梅澤も後を追うように乗り、回収班の素早い作業を終えるとヘリは基地へと戻っていった。

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