ゔぃらん、になるっ!
明鏡止水
第1話 ぼくは ゔぃらん になる……
道にゴミを捨てた。
小さな子を力で泣かした。
勉強はしない。
毎日をただ笑う。
年寄りを嗤う。
年少者を嗤う。
障害者を嗤う。
病人を嗤う。
そして、
ただ、じぶんのことさえ、笑えない。
「どうして悪役になろうとするの?
ほんとうは、とってもいい子なのに。
どうして? あなたをわかりたいの」
そんな言葉の意味がわからないうちは、とにかく、僕は、ヴィランだった。
そんな毎日も、永く続けられなかった。
やっと、ヒーローが現れたからだ。
成長した、不治の病の妹だった。
「なんで、なんでもかんでも壊すの? ほんとうは、たくさん作りたいんでしょう? 私に健康な骨髄を分けてよ、暴れ者の、嫌われ者の、だいすきな、おにいちゃん……」
誰かのために破壊したかったんじゃない。
誰かのために喪失させたかったんじゃない。
蒸発も焼失も消去も、再生できない、救済できないものへの怒りと悲しみとやるせなさへの対抗。
泣きじゃくりながら訴えた。
「悪者がいればいい奴が輝くんだ。善行と悪行がくっきりわかれて、英雄が浮かび上がる。自分がそれになろうと思うより、悪人になる方が、うんと社会に、人に光を向いてもらえる。向かせられる。だったら、頑張ってるやつに、闘えるやつに、優しいやつに、スポットライトが当たればいい、って。捨て鉢になっても、一人で泣いてても、たとえ、世界で一人闇をみつめててもいいじゃないか。誰も助けられないのに、塵のように消えることもできないで……」
そうやってひとり、関係性や自分の可能性を壊してく。
「一人でいてもいい。でも、独りならないで。ここにいる誰よりも力強くあらがう強さを持ったお兄ちゃんに、わたしは、いのちを、すくわれたい……」
さんざん独りで色んな人を泣かせてきた。
どうしようもなく傷つけて遠ざけてきた。
近寄ってくるものははねのけてねじ伏せてきた。
家族でも、悪友でも、赤の他人でも、たとえこの世の誰もが、僕という「闇」から逃げるはずだった。
照らしてきたのは、弱いやつ。
「死にそうになるくらい、全力で、わたしは、お兄ちゃんを、求めるよ!」
決壊した。
光を浴びて、逆光を知る。
どんなに自分にできることがあっても、正義や勝利や努力、そんな結晶なんて生み出せないと思っていた。
「やり直さなくていいから、戻ってきて。
償って欲しいけれど投げ出さないで。
生きたい人に、できることを、わたしに、ください」
健康が一番で、普通が一番な気がして、でもできることなんてわずかで。
どんなにつらくても、じぶんより、辛いやつのことを思うと死ねなくて。
「壊してばかりだけど、だれかを生かせられるなら何回でも生まれ変わって助けたい。生まれ変わりが許されないなら、この世にないなら、今度こそ。一生懸命という生き方で、ありのまま努力したい。こんなふうに、いつか生きていて誰かの力になるなら、悪役なんて遠回しな生き様を選ばなかったかもしれない」
いいよ。
「いいよ」と言われた。
他の誰もが許さなくても、許されなくても、あなたが、暗闇を見つめ返すことをやめるなら。
ありがとう、どんなに辛くても、そこにいてくれて。
悪いやつを演じて、ルーキーを照らしてくれた。
真っ黒なひかり。
全てを飲み込んでも、心が壊れそうでも、いつか現れる本当の光のために、悪役でいてくれた人。
「いっしょに いこう」
行けるところまで、泣いて、笑って、風を感じて。
世界を実力でともだちにする。
ゔぃらん、になるっ! 明鏡止水 @miuraharuma30
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