第6話 世界の終わり方
職員室にたどり着く。
この学校の造りに詳しい二人に案内されて、僕たちは危なげなく職員室へとたどり着くことができたのだ。
職員室の中は荒れていた。しかし争った形跡は見受けられない。
刑部さんは職員室に備え付けてあるテレビをつけて、ニュースを流しはじめた。
その後、実習生である刑部さんは相も変わらずのほほんとした口調で当時を語る。
「モンスターが学校に現れたときは、クラスを持たない男の先生たちが対応しに行って、残りの人たちで学校に残っている生徒を逃がそうとしていたのよ~」
「僕たちが目覚めた時は先生は……」
そういえばその話が出来るのはヒイロだけだな。僕はずっと気を失っていたのでなにも分からないや。
ヒイロを見やると、彼はまだ血が足りていない様子。回復呪文を使っても失った血液は戻らないらしい。
「俺たちの携帯を届けに来てくれた人は、どうやらモンスターの対処にかり出されたみたいだな」
「最初はどうなってたのさ。最初からモンスターが学校に入り込んでたわけじゃないんだろう?」
「最初はボクたちは大人しく待つように指示されてたッス。けど、放送室にまでモンスターは入り込んで、悲鳴が放送で流れると……」
創里くんは述懐していくうちに顔が真っ青になっていく。よほど思い出したくない記憶なのだろう。
彼の言葉を受け継ぐように、ヒイロがニヒルに笑う。
「――大渋滞。我先にと逃げ出す生徒と、わけもわからず流されていく生徒に別れて大騒ぎさ」
「……そんな中、お前は残って僕を守ってたってこと?」
こちらがちょっと自分でも信じられないように問いかけると、ヒイロは鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「幼馴染に死なれたら寝覚めが悪いだろ」
「ヒイロさん、カッケーっすね!」
「ヒイロ君はユーリちゃんが好きなのね~」
創里くんと刑部さんの言葉に……いや、正確には刑部さんの言葉だけにヒイロは極端に反応する。
「俺が男を好きになるわけないでしょう!」
真顔で切り返すヒイロに、刑部さんはのんきに驚きの様子を見せた。
「もしかして〈セブンスコンクエスト〉のキャラって異性も作れたの? 私の時は無理だったのだけれど」
「……いや、僕はいけたけれど」
「そうなんだよな。〈7CQ〉はアプリのころから持ち主によって出来ることに差異があった。ゲームとしてはおかしな挙動だが、これがこうして現実に侵食しているのを見るとまあまあ納得できる」
刑部先生は赤色の唇に指を当て、このアプリってどういう意図で作られたんでしょうね、と小首をかしげた。
三人がうんうんと唸って悩んでいるところ、創里くんがプルプルと震えながら手を挙げる。
「〈7CQ〉には用語説明やヘルプがあるみたいなので、それを見てもいいかもしれませんね」
と、創里くんは空中に浮かんだ透明のウインドウをスクロールしてみせる。
……!?
「な、なにそれ!? ホログラム!?」
「こ、これは気がついたら出来るようになっていて……。元々ボクは〈7CQ〉を入れてなかったんですけれど、ユーザーの姿が変わったあたりから、ボクたちにもできるようになって」
「どうするんだ、創里くん、それ」
ほう、と目を輝かせて創里くんに食いつくヒイロ。
〈7CQ〉のことは嫌いだが、こういったファンタジーやSFっぽいことは大好きなあたりが僕と趣味が合う数少ないところだ。
創里くんはしばらく天井を見上げてうなり、考えがまとまったのか早口に喋り始める。
「頭のおでこあたりに意識を集中させると……、ほら! ちなみに他の人が見られないようにすることもできますよ」
ふーむ。おでこの辺りに意識を集中……お、できた。
ウインドウを1回閉じて、今度は……〈ウインドウ〉と心の中で呟く。
お、これでも出た。アクセスの入り口がいくつかあるのは助かるなー。
「心の中で〈ウインドウ〉って言うだけでもいいみたい」
「そっちの方が早いわね~」
「ボ、ボクがせっかく発見した方法が一瞬で廃れた……」
悪いねえ、一瞬で改良しちゃって。にひひ。
「でも創里くんが教えてくれなかったらこの方法も分からなかったよ。ありがとうね」
「は、はい……! ヤバいメチャクチャ良い匂いする……!」
創里くんに近づいてお礼を言うと彼は顔を真っ赤にしてなにかぼそぼそと小声で呟く。
本当はボクの方が凄いんだからな、とか言われてたらちょっとショックかもしれない……。仲良くなれそうなだけに。
すぐにヘルプ欄から欲しい情報を抜き出してきたのは刑部さんだ。
「あのね~、〈7CQ〉は元々人によって出来ることが違うように設計しているみたい。だから、その人だけが持っている特別な力も、他の人も持っているかもしれないわ」
「僕の特別な力が女の子になれるだけってどういうことだよっ!」
「よっ、美少女の才能!」
わはは、とヒイロが笑うが冗談じゃない。
こういうことになるならもっと別の才能が欲しかった。
いや、そもそもこういう事態にならないで欲しかった。
……本当に?
そう自分に問いかけると、少しだけ非日常を楽しみ始めた自分がいることに気づき、愕然とする。
家族が死ぬかもしれないのに、大勢の人が死んでいるのに。
僕はそんな大惨事を少しずつ楽しみ始めていたのだ。
そしてそれは自分だけではないのが、恐ろしい。
世界の破滅を楽しみ始めた人間が行う破滅的な行為に巻き込まれる可能性だってある。
そのことを、覚悟しなければならないのかもしれない。
「おい、ユーリ。テレビ見てみろよ」
そう言ってヒイロは職員室備え付けのテレビを指さす。
テレビの中継先、レポーターが必死にある方向を指し示す。
〈7CQ〉によって変質した人たちが筋肉質の黒い鬼、オーガを倒さんと集団で対抗している様子だ。
『ば、バケモノを、自衛隊が倒せなかったバケモノをいま、不思議な風貌の集団が追い詰めています! これはいったいどういうことでしょうか』
番組が切り替えられると、別の緊急ニュースではスタジオのアナウンサーがスタッフに耳打ちされる。
『いま、速報が入りました! 今日午後三時から突如現れたバケモノをモンスター、それらに対抗する集団を
番組を変える。
『総理は国会を開き、与野党の議員の四分の三が行方不明でありながらも緊急事態宣言を発令しました!』
番組を変える。
『全世界的にですッ! 全世界的にこの災害が、〈大転変〉が起こったんです! 安全な場所はもうどこにもない! 皆さん、生きてください!』
刑部さんがテレビの電源を切る。
「……早急に、自然に収まる災害ではなさそうね~」
「僕たちは長期的なサバイバルを見据えて、まずは避難所に家族を拾いに行くつもりですけれど。お二人はどうします?」
僕の問いかけに刑部さんと創里くんは顔を見合わせる。あ、創里くんが照れて下向いた。
「私は家族も遠いし、貴方たちについていくわ~。車の運転なら任せてね。あ、でも私は車持ってないから、鍵は別のところで手に入れないとねぇ」
「ボクも親が海外にいるのでお二人についていきます。……連絡取れればいいんですけど」
「決まりだね。……一番車の鍵が多そうなここを家捜しして、行こうか」
おー、とヒイロたちの声が重なった。
世界が終わりゆくなか、僕らは職員室にある使えそうなものを集めることになったのだ。
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