第5話 付与魔術師の戦い方
僕には友達が少ない。
誰が嫌いとかそういうわけではなく、なんとなく合わないなあという肌感がずっとまとわりついていただけだ。
だから人との交流は最低限だ。ヒイロは友達だけど、ヒイロの友達は友達じゃない。
頭脳を使うスポーツ……将棋や囲碁でもやっていれば友達でもできたかもしれない。
でも近くに本気でそういったことをやれそうな場所がなかった。
遠くまでいけばプロが経営している場所なんかはあるかもしれなかった。
けれども両親は共働きで、祖父母とも家が遠かったため自然と鍵っ子だった。
学校ならともかく趣味の場で小学生かそこらの子供をひとりで遠くまで行かせる親はそう居ない。
少なくともウチはそういう家庭ではなかった。
だからこそ、僕はゲームをしていた。
その中でもオンライン機能のあるものを好んでいて、MMO的なものからFPSまで結構遊んでいた。
親もゲームさえ与えておけば大人しいと知ったので、あまり面倒を見られない埋め合わせとしてゲームを与えられていた。
そこで僕はひとつ自分を知った。
自分は相手と競うよりも協力してなにかを成し遂げることが好きなのだと。
たとえ他人と競っても負けないつもりではあるけれど、どうしても競うことが大好きな人と比べると戦績は見劣りした。
小学校のころから色んなゲームを遊び、転向し……。
そうして高校生になって、周りに置いていかれないために勉強に励むことでゲームを触る時間が減り。
あるとき、〈セブンスコンクエスト〉と出会った。
現実世界でなんにでもなれて、どんな敵とも戦える。
それが自分をとてつもなく興奮させて、気がついた時には勉強を忘れていた。
そんな友達が少ないゲーマーの僕が目をつけたのが、
覚える攻撃魔法は状態異常や弱体に特化しており火力は貧弱。
補助魔法といえば誰かがいてこそ輝くものばかり。自分に攻撃力アップの呪文をかけても大した火力は出ない。
反面、頼れる仲間が居るときの付与魔術師というものほど厄介なものはない。
剣士の剣の切れ味を上げ、騎士の頑強さを上げ、神官の祈りの質を上げ、魔法使いの呪文の力を上げる。
敵の力を軟弱なものにし、速度を牛歩にし、身体の強度を下げ、頭の回転を鈍くして呪文を貧弱なものにする。
そんな、皆を活かすという設計思想に友達の少ない僕でも共感してしまった。
この職業を使いこなすことができれば、きっと楽しいはずだと。
二メートルほどの巨躯を誇るオニを前に僕は杖を構える。
殴りかかるためのものではなく、集中して呪文を使うために。
「行動が遅え! オラッ!」
「……〈へイスト〉!」
オニは金棒を振り回すと教室の窓や枠をビスケットでも砕くかのように破砕していく。
オニに一番近くに居たヒイロは、まず隣にいた
このままではヒイロにオニの金棒がモロに当たってしまう。
しかし――そうはならない。
僕がヒイロにかけた魔法は〈へイスト〉。
効果は一定時間、対象の行動速度を上昇させる。
ヒイロは自分の速度が想定していたよりも速いことに気付き、数歩だけこちらに進み、攻撃を回避する。
「ユーリ、指示と魔法を飛ばしてくれ。さすがに〈セブンスコンクエスト〉が嫌いとか言っている場合じゃない」
「分かってる。刑部さんと創里くんは周囲を警戒していて!」
こちらの言葉に刑部さんは心配を滲ませた声で問いかける。
「大丈夫なの? 私も魔法が使えるらしいし、手伝った方が……」
「……刑部先生、勇気がありますね。ボクはこんなに強そうなのは絶対ムリ」
ブルブルと身を震わせて頭を振る創里君。まあそれが正常な反応だと思うよ。
そして刑部さん、ありがたいけれど――
「銃は当然、魔法もおそらく周囲を巻き込みます。連携が取れてない状態で狭い廊下で戦える相手ではないです!」
「そゆこと! でもゴブリンとかが邪魔しに来たらさすがにきついから、それだけは近寄らせないように頼んます!」
僕とヒイロは二人に下がっているようにお願いをすると、刑部さんと創里くんのふたりは顔を見合わせて頷いた。
「任せて~。私も魔法が使えるらしいから、創里くんと一緒に露払いはするわ~」
「ゴ、ゴブリンならなんとか……」
二人はこちらから離れて周囲を警戒し始める。
そんな様子を見てオニはせせら笑う。
「勝てるつもりか? 魔力袋ごときがよォッ!」
「勝負は時の運って言うしな。やってみないと分からないだろ? な、ユーリ」
「そして勝率がわずかにあるなら、僕が確実にたぐり寄せてみる。……負けるつもりは毛頭ないよ」
こちらの強気な口調にオニは豪快に笑い――怒鳴った。
「ガキ共に馬鹿にされて大人しくしてられるかよ! 男は手足をもいで、女は犯してから
オニは棍棒を担ぎ――大上段に振り下ろす。
当然ながらオニの攻撃は天井に突き当たり、しかし金棒は麩菓子でも砕くように上階の廊下をこそいでいく。
正面から受ければ即死。擦っても致命傷と言ったところだろうか。
ゲームであれば序盤から出てくるような敵ではない。
実際に、〈セブンスコンクエスト〉内におけるオニは中盤の難敵である。
物理攻撃が効きづらく、魔法もこれといった弱点がない。
大体の剣士と魔法使いにとっては鬼門である。
「ヒイロ、そいつは異様にタフだ。一撃で片付けようとしないでよ!」
「分かった。ただ時間がかかるぞ?」
「時間をかけてでもここで仕留めるべきだよ。ここで逃げたら狭さの優位性を活かせなくなる」
特に逃げてグラウンドまで来た時点で追いつかれたりしたらダメだ。
あの豪腕で金棒を自由にさせてはいけない。
廊下という横幅の狭い場所を活かしておきたい。
「わかった。……援護頼んだぞ」
「現実でゲームと同じようにできるかは分からないけれど、任せて」
ヒイロがたたん、と高速でステップを刻んでオニの横をすれ違いざまに斬り付ける。
……やはりというか、ヒイロの攻撃はあまり効いていない。
オニの表皮を切っているだけで、血管まで届いていない。
「かってぇ!? もう一度、〈ダブルスラッシュ〉!」
「懐に入ればオレサマの有利だッ!」
オニは力を溜めてヒイロの攻撃を待ち構える。
このままではカウンターを貰っての即死が待ち受けている。
だがそうはならない。
オニは物理魔法の耐性に優れている代わりに状態異常には必ずかかる。
つまり、敵味方の状態異常や耐性に変化をつけることを得意とする
「〈ナイトメアボルテクス〉。〈ブレス〉、〈ウィークネス〉! 敵の身体を柔らかくした! 今だ!」
暴風が巻き起こる。
ひねっていた身体の制御を無くして回転させ……〈ナイトメアボルテクス〉の効果で膝をつき、無制御のまま金棒を放り投げたからだ。
廊下の窓や壁は投げられた金棒に引きちぎられていき。
触れていないはずのヒイロの身体も金棒が投げられたことによって起きたカマイタチによって深く斬り付けられる。
「ヒイロさん!」
「ヒイロ君!」
創里君と刑部先生が叫ぶ。
しかしヒイロは止まらない!
宙ぶらりんになった左腕を右手で無理矢理くっつけて、オニの地面に向かって垂れた頭を――切断する!
塵になって消えていくオニ。
その心臓部にはキラキラと光る石が現れて地面に落ちた。
オニが消滅した瞬間、身体の底から力が湧き上がってくる感覚を覚える。
この不自由な世界であっても、今ならばなんでもできるのではないかという全能感さえ覚えてしまう。
「おおおお、ヒイロさんたちがオニを……!? ほ、本当に人間……?」
「その前にヒイロ君の手当をしないと死んじゃうんじゃないかしら~」
刑部先生の言葉にハッと我に返ってヒイロを見てみれば、無理矢理くっつけていた左腕はぷらぷらとちぎれそうになっていた。
腕からはこれでもかと血液が出てきており、ヒイロの顔は真っ青を超えて土気色に。
「ひ、ヒイロ! 待って! 死なないで! 〈ヒール〉、〈ヒール〉!」
「……ユーリ、イエイ」
繋げている最中の左腕ではなく、右拳を挙げてこちらを待っているヒイロ。
脂汗でシャツはぐしょぐしょになっている彼の様子を見て、僕は呆れてため息をつく。
拳をこつん、と軽くぶつけた。
「……ん。今度はもうちょい上手くやる」
「いやー、でもこれ適性レベル帯の敵じゃないっぽくないか? ここまでやれたら上々だって」
「馬鹿野郎、僕がやる以上は完璧に勝ちたいんだよ」
「出た出た、完璧主義」
十数分ほど治療と並行してくだらないやりとりをして、僕たちは職員室へと向かうことになった。
後から思い返せば、このオニとの戦いでひとつ分岐点を迎えた気がする。
この後バスで学校を脱出するときに、僕は悪人と出会い……そこでまた問題が起こった。
そこでようやく知るのだ。
この災害はモンスターだけが敵じゃあない。
悪意を持った人間、生き延びようとする人間すらも敵になりかねないのだと。
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