「トランプ」、「安心」、そして「ひざ」
放課後の文芸部室。
机の上に、ぱらぱらとばらまかれたカード。
「……で、なんで今さらババ抜きなんだよ」
「“たまには脳を使わない活動も必要”ってネットに書いてあったので」
「ネットを文芸部に持ち込むな」
「でも実際、脳が疲れたときって、ひざが勝手に崩れません?」
「そのへんの関節に心がある理論やめろ」
二人で向かい合って、床に座ってカードを切る。
ちゃぶ台のように使われてる低い文芸部机のせいで、
足が触れそうな距離感だ。
「先輩、めっちゃ顔に出ますよ」
「出てねえよ」
「じゃあ、ジョーカー引いたときのあの眉の動きは何ですか」
「まばたきだ」
「嘘です。“ひざがピクリと逃げました”」
「お前、そこまで見てるのか……」
「でも先輩とこうやってカードしてると、ちょっと安心します」
「なんで」
「だって、トランプって、先輩に勝てる数少ない遊びじゃないですか」
「おい」
「知識量とか論理構築とかでは勝てなくても、運だけはたまに勝てる!」
「それが安心材料なのかよ」
「“知的優位者とのババ抜き”って、小説のタイトルにできそう」
「やめてくれ、俺が負けたみたいじゃん」
グダグダいいながらカードを引きあっていく。
「ちなみにいまジョーカー、私のところにあります」
「それ言っちゃうのかよ!知ってるけど」
◆◇◆
数回のババ抜きで、結果は——二勝三敗。
負け越した俺が悔しがっていると、後輩がポンと俺のひざを指でつついた。
「せんぱい、そうやってひざで悔しさ表現するのやめてください」
「なにそれ。ひざ、そんなに語ってる?」
「語ってますよ。“小さく震えるひざ”は“負けを認めたくない心”の表れです」
「めちゃくちゃ言語化されてて逆に恥ずかしいな……」
「でもなんか、わたしにはちょうどいいんですよね、文芸部って」
「どういうこと?」
「ちゃんと喋らなくても、なんとなく“ああ、大丈夫か”って思える時間があるっていうか」
「……ああ、わかる」
「こうしてトランプして、ひざがちょっと当たっても、何も言われない感じ」
「お前、今さらっと恥ずかしいこと言ってない?」
「えっ!? い、いまのはその……“比喩”というか!」
「お前が照れてどうするんだよ」
最後にもう一回だけやろう、と言って、
二人でカードを配り直す。
ジョーカーがどこにあるかなんて、どうでもいい。
この時間が続いてほしいという気持ちが、
カードより先に、ひざの先から伝わってくる気がした。
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