第22話 新たな力

「ふざけんなっ!」


 部屋にキリさんの怒声が響いた。


「テルの防具に使うって、そういう話だったじゃなですか! なんで、武器を作ろうって話になるんですか!」

「今言った通りだ。種子島が壊れた。代わりの武器が必要だ」

「武器なら店売りの物を買えば良いんです。わざわざあかミスリルで作る必要はないはずですっ!」

「今言った通りだ。別の武器じゃダメなんだ。テルには種子島が必要だ。でも普通に作ったんじゃまたぶっ壊す。俺が保障する。こいつはまた壊す」

「壊さないですっ! だろっ、テル!」

「……こわ……し、ます」

「テルは黙ってろ!」


 そう言うとキリさんはまた「とにかくダメっ!」 と。

 激論バトル7週目に入った。


「そもそもが、キジナさんが選んだ武器なんだろう。だったらそれ以上はねぇ。テルに必要なのは攻撃力だ。防具なら何とかしてやるから、あかミスリルは武器を作るのに使わせてくれ」

「嫌です! 防具に使わないなら返してください!」

「もともとはテルの物だろ。キジナさんがテルに預けたんだから」

「預かったのは私です! テルのチューターも私です! だから私が決めます!」


 これは平行線だな~。

 と、他人ごとのように見ていたら、ふと思い出したことがった。


「そう言えばキリさん、キジナさんから手紙預かってませんでしたか?」

「その話は後にしろっ」

「いいや、俺は気になるね。キジナさんのことだ、あかミスリルの使い方について書いてあるんじゃないのか?」

「そんな都合のいいこと……」


 あるわけない。それが普通だ。でも、キジナさんは普通じゃない。何がどこまで見えているのか分からない。だからもしかすると。

 キリさんもそう思ったのか、溜め息を一つついて、それからキジナさんの手紙を出して、タツミさんに渡した。タツミさんが封を開け、中の手紙に目を通す。それから苦笑いを浮かべて。


「やっぱり、あの人はスゲェや」


 そう呟いて、手紙をキリさんに渡した。


「読んでみろよ」


 キリさんは手紙を受け取り、目を通す。それから苦虫を噛み潰したような渋い顔になり。諦めるような深い溜息を吐いた。


「なんて書いてあったんですか?」

「テルはどうせすぐ、種子島を壊す。だからあかミスリルで強化してやってくれ、って。そう書いてあった」


 まさにその通りだ。

 キジナさんは未来予知者かな?


「というわけだ。俺はあかミスリルで新しい銃を作る。これはキジナさんの想いでもあるからな」

「……分かりました。でも条件があります」

「なんだ?」

「テルにちゃんとした防具を見繕ってやって下さい」


 タツミさんはニヤリとする。


「もちろんだ」


 そう言って、「ふんす」と鼻を鳴らした。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 タツミさんから新しい銃を手渡された。

 銃身は真紅の炎で燃え盛るような意匠が施されてある。

 種子島よりも軽く、扱いやすい。


「気合い入れて作らせてもらった。久しぶりに楽しい仕事だった。新しい武器について軽く説明する。こいつは以前の種子島と比べて軽くて丈夫になった。丈夫になっただけじゃない。あかミスリル製の銃弾は込められた魔力を増強してくれるし、銃身に刻まれた呪文が放たれる弾丸の魔力を整えて威力を増してくれる。シンプルに攻撃力アップだ。

 あとは弾丸も加工した。2発だった弾数を3発に増やしたのと、魔力の容量もあげた。これで1発の中に2つまでなら魔法を乗せられる。でも同時に、3発は乗らないように制限をかけている。そもそも今のテルでは、連発は出来ないからな。自分の実力と相談しながら、十分に考えて使え。以上がこの武器の使い方だ。なにかあるか?」

「いいえ。スゴすぎてビックリしています」

「正直自信作だ。存分に使ってやってくれ。よしっ。最後にこいつの名前だ。カッコいい武器にはカッコいい名前が必要だ。そうだろ」


 ──名前かぁ。

   元が『みんな大好き種子島』だったからなぁ。

   もうちょっと普通の名前がいいな。


 そこでふと、ある疑問が浮かんだ。

 みんな大好き種子島、は誰が名前をつけたのだろう。てっきりキジナさんだと思っていたけど。作り手がタツミさんってことは、もしかすると。名付けもタツミさん?


「そういえば、みんな大好き種子島、はタツミさんが名付け親ですか?」

「ああ、そうだ。良い名前だろう」


 ──あ。この流れは。

   なんだか不穏なヤバい気がする。


「──確認なんですが、みんな大好き種子島改、だったりしませんよね」

「おおそれも悪くないな。でも、もっと良い名前だ。紅い銃に、世界一ピッタリの名前だ。なんだと思う」


 ──分かりません。

   でも嫌な感じしかしないです。


「なんですか?」

「クリムゾンだ!」


 ──クリムゾンか。

   伝説的な武器の名前と一緒だ。

   あんまり良い伝説ではなかったけど。


「……ありがたく受け取ります」


 こうしてボクは、クリムゾンを手に入れた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「で、結局防具はどうするんだ?」


 キリさんにクリムゾンのお披露目をした後、話題は防具のことになった。


「それなんだが──」


 タツミさんの言葉は、不穏な空気を醸し出していた。

 ボクもキリさんも、その先の言葉を待った。


「キリの資金はどのくらいある?」

「まぁ、普通の装備を買える位はありますが。良い防具となると手が届かない。そんな感じです」

「そうかぁ──。実はな、クリムゾン作ることに気合い入れすぎてさ。お金ほとんど使っちまってさ」

「つまり?」


 タツミさんは元気よく言った。


「金が無さすぎて、防具を調達するのが難しそうなんだ」

「──そう、ですか」


 キリさんの雰囲気が変わった。黒い空気がキリさんの周りを覆っていく。

 そんなキリさんが放った一言は、今までで生きてきたなかでダントツ一番の、殺意に満ちていた。


「──お金がない、です?」


 それから短剣ダガーを抜いた。


「タツミさんなら知ってますよね。ミノタウロスの角は、高値で売れる、って」

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