冒険の終わり

第39話 終わりの始まり

 翌朝、街を出て山を登った。険しい道を協力しながら登って行くと頂上に着いた。

そこは見渡す限りの平地になっていた。

少し向こうでは小高い丘になっており、木や草がメチャクチャな方向に生えていた。その真ん中にキリさんの影が立っていた。


 影がこちらに手を振りながら。


「よう。久しぶり、元気そうでなより」


 気さくに言葉をかけてきた。


「前はすまなかったな」


 その言葉に、キリさんは。


「構わないさ。今日はこっちもそのつもりで来てるんだ。どうなってもお互い、恨みっこなしで行こうぜ」

「さすが、私様キリだ。本当は頭数も同じにそろえて欲しい所だけど、そこまでは言うまいて」


 終始明るく、でもその瞳には青い炎が燃えていた。


「前は本当にすまなかったな。本体様はあんまり人前に出たくないんで、不意の攻撃になっちまった。だから今回はちゃんと表に出てきた貰うことにした。説得するの大変だったんだから、ありがたく思ってくれよ」


 そう言って、キリさんの影は地面を撫でた。


「起きてくれよ。本体様」


 地面が、ピクリ、と揺れた。まるで生き物のように。

 キリさんの影の後ろにあった。小高い、草木の生えた丘がムクりと起き上がった。

 それは、巨大な芋虫ワームのような形をしていた。草木の様に生えていたものは、無数の棘だった。その棘が全身をびっしり覆っている。動くたびに、黒いガスが出血のように体から噴き出た。


「おっと、顔を顰めないでくれよ。こう見えても心は乙女でな、繊細で傷つきやすいんだ。まぁ、だからこそ、こんなに硬く、刺々しくもなっちまったんだが。そのあたりは空気読んでくれよ。みんなそれくらいは大人だろう」


 その言葉を聞いてワームは一度だけ、重たく鈍く、のたうった。無数の棘は虫の足のように蠢き、黒いガスが、周囲に霧を作る。

 ボクはキリさんを見た。キリさんは唇を強く噛みながら、目をヒクヒクさせながら、それでもボスを見ていた。


「キリ」


 キジナさんの穏やかな声が響いた。


「緊張しているか?」


 その言葉にキリさんは「はい」を返した。


「ハハっ。ワタシもだ。前回のことがあれば尚更だよな。でも、緊張以上に、感慨深く感じている。あのヘッポコだったシンが、逞しくなって帰ってきた。人一倍不器用でで、人一倍頑張り屋だったハギが、頼れる存在になった。そしてなにより、あんなに後ろ向きだったキリは、今こうして前を向いている。3人の成長は、ワタシの誇りだ。と同時に、だ。きっちり終わりにしたいと思っている。


 ハギ。全体指揮はお前が最適任だ。

 テル。キリのサポートに回ってやれ。

 キリ。オフェンスだ。お前の力で、本体ボスを倒すんだ。


 コレはお前たち3人の冒険だ。3人で終わらせるんだ」


 キジナさんの言葉に、ボク達は「ハイっ」を返す。

 緊張はもうあまり感じなくなっていた。緊張よりも、自分がやるべきことに集中していた。

 キリさん、ハギさんと目を合わせる。3人で無言で頷く。

 それから、ハギさんの指揮が飛んだ。


「まずは頭数を減らしに行くよ。キリは影への攻撃に集中して。シンはキリのサポート、オフェンスとディフェンスの両面でサポートしてあげて。後はオレと師匠で、ボスの行動に注意しながら、魔法でディフェンス面でのサポートをしていくよ。みんな、準備は良い?」

「ああ、早く始めようぜっ」


 キリさんの、張りのある声が帰って来た。

 そんな様子を見ていた、キリさんの影は。


「いいね。ラストバトルって感じだ。それじゃあ」


 次の言葉は、ざらざらとしていた。


「は じ め よ う か」


 不意に体が危険を察知して、地面を蹴った。

 次の瞬間。地面から黒い棘が、林立して生えて来た。

 反応できたのは、ボクとキリさんの2人、キジナさんは硬い外皮で大きな怪我にはなっていないようだった。

 でも。

 ハギさんが棘が手足を貫いて、消えた。

 その場で膝をついたハギさんの所に、ボクとキリさんが駆け寄ろうとした。

 そんなボク達に、ハギさんは手を前に突き出して、止めた。


「大丈夫だから、構わずに行け。この程度なら、直ぐに回復できる!」


 痛々しい笑顔を向けてきた。

 ボクは迷った。そんなボクを、キリさんの声が「行くぞ、テル!」戦いに向かわせた。


「ハギが大丈夫って言ったら、大丈夫だ。師匠もいる。ちょっと予定とは違うが、私たちがやることをやるぞ」

「ハイっ」


 同時に、影に向かって、クリムゾンの引き金を引いた。


 遠隔多重攻撃×Ⅲ。「三つ蜂」。


 キリさんの判断が無ければ、一瞬でも引き金を引くのが遅れていたら、危なかった。

 キリさんが影に向かって、矢を放った。影は、その矢の軌道を逆に辿るように、最短距離でキリさんに向かって突っ込んできた。飛んでいる矢が空中で音を立てて切り払われた。そして、一瞬でキリさんの目の前に現れた。

 キリさんもそれに対応した。影のナイフの一撃を同じくナイフで受け止めた。直後に、影の蹴りがキリさんの腹部に刺さった。そのまま、地面に倒される。地面からは棘が飛び出し、交差する形でΛをつくり、キリさんの両手足を地面に張り付けた。

 動けなくなった所に、影のナイフが振り降ろされた。そのナイフがキリさんに届く直前で、ボクの発射した弾丸が届いた。

 3匹の蜂の攻撃はそれぞれ、影のナイフを弾き飛ばし、影の両手両足を貫き、キリさんの拘束を解いた。キリさんは地面を蹴っておき上がり。


「おかえし」


 影の腹部を蹴って距離を離した。


「サンキュー、テル。助かったぜ」

「まだです。まだ、凌いだだけです」

「そうだな、気を引き締めて行くぞ」

「ハイっ」


 キリさんの影は、蜂に貫かれた傷を見ていた。それが塞がりきるのをみてから、ボク達を見て口を尖らせた。


「思うんだが、シンのその銃は、ちょっとチート過ぎないか」


 影の言葉に、キリさんは返した。


「良く言うぜ。そっちだってチートだろ。予測不能の攻撃と、防御面では自己修復リジェネレイトがあるんだから」

「そうは言うけどな、コッチだって見た目以上にカツカツなんだぜ。2人同時は厄介だよ」

「諦めてくれていいんだぜ」

「そっちもな」


 直後。キリさんの影は地面を蹴って、真っ直ぐにボク向かってに飛び掛かって来た。咄嗟に。


「三つ蜂!」


 クリムゾンの引き金を引いた。弾き出された弾丸は、影の周囲を飛び、攻撃を仕掛けた。影はそれを最小の動きで躱し、なおも突進して来た。

 危険、の2文字が電気のように体中を走った。

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