第33話 回復とおつかい

「悪かったな、さっきのことは忘れてくれ」


 キリさんが目を覚ますと、開口一番そう言った。


「たぶん無理です」

「お前な、嘘でも『何のことですか』くらい言えよ」

「だって、あんなキリさん初めて見ましたから」

「忘れてくれって言ってるそばから、思い出さないでくれ」


 そう言ってキリさんは頭を抱えた。その様子を見て、ボクは笑った。


「なんだよ?」

「元気になって良かった、って」

「まだ元気じゃないよ、倦怠感でズブズブだ」

「大丈夫です。ハギさんが治してくれるって言ってました」

「ハギの魔法適性は異常だったからな。まぁ、師匠も大概だけど、その魔法を全部吸収したハギも異常だった」

「そんなに凄いんですか?」

「人間の皮を被った化け物だよ、あれは」


 キリさんがそういうと、扉の向こうから声が聞こえた。


「そんな。本人のいない所で褒めないで欲しいな」


 それからハギさんが入ってきた。


「キリが寝ている間に呪いの解呪方法は見つけておいたよ」


 キリさんは驚いた顔をして、それから鼻を鳴らした。


「さすが人外じんがいだ。師匠でも無理だったのに」

「まぁ、実際はほとんど師匠1人で解呪の方法を解明したんだけどね。オレは手を貸しただけ」


 そう言ってから、キリさんに薬を渡した。


「これを飲んで横になって」


 キリさんは薬を飲み横になった。

 ハギさんは呪文を唱え始める。

 キリさんの身体が光に包まれる。

 そんな状態がしばらく続いた。

 最後にハギさんが「これで良し」と言うと、キリさんは目を開けた。


「調子はどう?」

「最高。あんなにあった倦怠感がなくなった。やっぱり天才だな」

「それは良かった。でも、まだ完全に治ったわけじゃないから。呪いのあざが消え切るまでは、まだしばらくベッドで安静にしていること。コレは師匠からの言葉です」

「師匠はなんでも御見通しって感じだな。分かったよ、しばらくは大人しくしてるさ」


 その様子はいつものキリさんだった。その事が何より嬉しかった。

キリさんがベッドに横になったのを見て、ボクとハギさんは部屋を出た。

ボクとハギさんは部屋を出た。


「ありがとうございます。キリさんを元気にしてくれて」

「ほとんど師匠のお蔭だよ、オレはちょっと手伝っただけ」

 ハギさんはそう言うと、少し間をおいて。


「それに、まだ問題がある」

「どんな問題ですか?」

「実は必要な薬が足りないんだ。この辺りじゃ手に入らない稀少なものなんだ。それをどうやって調達するか。それで師匠も頭を悩ませている」

「ボクに、何かできることはありませんか?」


 ハギさんはこちらを振り返り、笑顔を見せた。


「あるよ。是非ぜひ、シンにやって欲しいおつかいが。やってくれる?」


 ハギさんの言葉に、ボクは頷いた。

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