第24話 専門店

 タツミさんは、呪いについて教えてくれた。

 それは祝福と似ていて、同時に全く反対のモノ。

 祝福は、単純に道具の性能を向上させる。同じ製法で作られたにも関わらず、他とは比べ物にならないほど、高性能になる。祝福は、まさに天からの贈り物ギフトだ。

 一方で呪いは、なにかしらの欠点デメリットがある。欠点デメリットがあるのだが、性能の向上については祝福を上回る。それは時に、意図しないほど強力になってしまう。振らなくても切れる剣。一切の攻撃を弾き返す盾。性能だけ見れば文句のない最上級の道具になる。ただ、道具の性能が強力になればなるほど欠点デミリットも大きくなる。本人の命を削る、仲間にも攻撃してしまう武器。自分のダメージを味方に押し付けたり、あらゆる回復を無効にする防具。そういった、本体の性能向上よりも欠点デメリットの方が大きくなるのが、呪いの道具の特徴、らしい。

 そういった特徴から道具としては使い難いとされ、販売価格も高くはならないらしい。


「呪いの装備を専門に扱っているヤツを一人知っている。さっき、テルと話してて思い出した。フウカだ。ギラゼルで店を出してる。早速行くぞ!」


 そういって立ち上がったタツミさんの横を、ちょこちょことついていった。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 その店はギラゼルの路地裏にあった。

 大通りから脇道に入って、悪い人が悪い取引をしていそうな薄暗い細い隙間を抜ける。その先にある迷路のような場所が続いていた。自分一人では絶対に戻れなさそうな複雑な道順を辿る。そうしてやっと、そのお店にたどり着いた。


「タツミだ、入るぞ」

「──テルです。失礼します」


 店の中は道具の手入れに使うようなアイテムが置いてあった。

 でも、武器や防具といったものはひとつも置いていない。ボクは不思議に思いながらも

お店の中を見渡した。タツミさんも、軽く店内を見渡し、それから。


「フウカ、いるか?」


 タツミさんの声に、気だるそうな声が返ってきた。


「うるさいヤツだなぁ。そんな大声出さなくても聞こえてるよ」


 そういって奥から、身長の低い筋肉質な女の人が出てきた。

 その様子から、たぶん小人ドワーフだ。


「よっ! お久し~。元気してた? スランプは抜け出せた?」

「おお。防具はまだダメそうだが、武器の方は感が戻ってきてな。ちょっとずつ上向きって感じだ」

「それはよかったね。なにも作らないタツミはただの牛頭鬼ミノタウロスだからね。ツノ以外に価値なくなっちゃうからね」

「相変わらず、興味ないものは外見しか見ねぇよな、フウカは」

淑女レディに対して、そんなものの言い方するヤツが内面をかたる?」

淑女レディ? 俺の視界にはチビゴリラしかいないんだが」

「──チビゴリラ? 久しぶりにキレちまったよ。表出ろ」

「完全にゴリラの思考と行動じゃねぇか」


 そんなタツミさんとフウカさんのやり取りを見て、ボクは思った。


 ──この2人、絶対仲がいいよな。


 すごく似た者同士感がある。

 仲の良い2人の会話じゃれあいを見ていると、そんなボクに気がついたのか、話を変えてくれた。


「冗談はさておき、だ。フウカに頼みがあるんだ。こっちの幼獣人シャルカ、テルっていうんだけどな。このテルにあった防具を探している。良いヤツがあったら譲って欲しい。最初に言っておくが、金はあまり出せない」


 フウカさんはボクを見ると。


「私は小人ドワーフのフウカだよ。よろしくなテル」

幼獣人シャルカのテルです。よろしく願いします」

「テルはタツミの弟子かな?」

「いえ。キリさんの弟子です」


 その言葉に、フウカさんはかなり驚いたようだった。


「フウカが弟子!? マジ?」

「マジだぜ。あのキリが弟子を取ったんだ。スゴい話だろ」


 そこでボクは、気になったことを聞いた。


「フウカさんとキリさんは、どういった関係ですか?」

「私はキリの姉弟子あねでしだよ。私とタツミが同期なんだ。あのキリが弟子か。そうなら代金はいらないよ。好きなのを持っていきな。ただ──」


 そういって一度言葉を切った。それから、真剣な表情に変わって。


「呪いの方がテルを気入ればね」

「どういうことですか?」

「呪いは扱いに注意が必要だ。みんな、忌み嫌うけどさ、使い方次第なんだ。誰かにとっては使いようのない道具でも、誰かにとっては、最高の道具だったりする。そういう意味で、呪いは人を選ぶ。だから、テル。ここではテルが選ばれる側だよ。それを忘れないように」


 フウカさんの言葉に「はい」と返した。


「よろしい。じゃあ講義レクチャーも終わったところで、さっそく選びにいきますか。ついてきな」


 そういって、フウカさんは店の奥に行った。

 ボクとタツミさんは言われた通りについていく。

 フウカさんは床に膝をつけ、手を置いた。そうして短く呪文を唱えると、床から扉が浮き上がった。


「呪いの道具はヤンチャだからね。地下で一括で管理してる。ここから先は呪いの影響が少なからずあるから、なにか異変を感じたらすぐに戻るよ」


 フウカさんは、ボクを見ながら言った。


「覚悟はいい?」

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