第32話 再会
キジナさんに招かれて、キリさんの部屋に入った。
キリさんはベッドに横になり、虚に天井を見ていた。
「キリさん」
そう声をかけると、首を僅かに動かし。
「テルか」
それっきり何も無かった。
全てに疲れてしまったように、なにもしたくないというように、天井を見ている。それが、胸を締め付ける。
「帰ってきました」
「ああ」
「約束を果たしに来ました」
「ああ」
「キリさんの力になりたいと思って」
もう、返事さえなくなってしまった。
ボクはキリさんの横に行き、手を握った。
「疲れたんだ」
そうキリさんは言った。
「もう休ませてくれよ」
そう言って手から力を抜いた。
まるで生きる気力を失ったようで、ボクの胸を裂いた。
「キリさん」
声に涙がにじむ。
キリさんの手を握りながら、涙を流した。
「キリ、聞いているんだろ」
キジナさんが声をかけた。
「実はもう1人客人がいる。キリにとっては懐かしいヤツだ」
キジナさんはそういうと、ハギさんを部屋に入れた。
「やぁ、キリ」
その声に、キリさんは目を開けて、首を動かした。
「久しぶりだね」
「ハギか」そう言って溜息をついた。
「キリにお礼をしに来たんだよ。友達のチューターをしてくれた、って聞いて」
そう言ってボクの肩に手を置いた。
「シンのチューターをしてくれた、って」
キリさんが掠れた声で「え」を呟いた。
「シンはね、キリのおかげでクリア出来たんだよ」
「冗談だろ」
その声は湿っていた。
「本当だ」
キジナさんが続けた。
「テルの名前は新堂テル。お前を助けて死んだ、シン本人だ」
キリさんが、起き上がろうとするのを見て、ハギさんが背中を支えた。
「シンなのか?」
「そうみたいです。前の記憶はないのですが」
ハギさんは、ボクと場所を変わった。
ボクがキリさんの背中を支えると、キリさんが倒れ込んできた。
「ごめん、シン。ごめん」
そんな言葉が涙と一緒に流れてきた。ボクは優しく抱いて、背中を撫でた。キリさんの言葉はやがて涙だけになり、涙が枯れるまで泣いた。それが終わると、寝息を立て始めた。規則正しい寝息だ。
ボクはキリさんをベッドに寝かせると、その横でキリさんが目覚めるのを待った。いつかそうして貰ったように。今度はボクがそうしてあげたかった。
そんなボクの肩に、ハギさんは手を置いて言った。
「あんまり無理はしないようにね」
そうして、キジナさんと一緒に部屋を出て行った。
ボクは、キリさんの寝顔を見ながら、起きるのをじっと待った。
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