第23話 記憶の中から

 闇落ちしたキリさんを元の状態に戻すために、2人がかりで死闘を繰り広げた。

 牛頭鬼ミノタウロスの角を狙う狩人の攻撃を、協力して避けながらひたすらに謝り続けた。時間が経ってキリさんが落ち着いてきたところで、やっと話が進んだ。


「で、どうする気ですか? 一応言っておきますけど、ここは絶対に譲りませんからね」

「わかっている。ギラゼルの工匠に何人か心当たりがある。そいつ等に頭を下げて防具を格安で作ってもらえないか、頼むつもりだ」

「それで、大丈夫なんですか?」

「わからん。──いや、正直にいうとかなり厳しい。そもそもテルは軽装向きだ。安全性を高めるには、普通の防具じゃ心もとない。できれば祝福付き、欲を言えば中級以上の祝福が付いた防具が欲しい。もし仮に防具を作ってもらえたとしても、祝福の方は完全に運だからな。望み通りの防具になるかは、運任せになっちまう」

「それはわかります。無理難題だからこそ、タツミさんに頼んだんです。だから──」


 キリさんのトーンがだんだんと下がっていく。冷静になっていくのが分かった。キリさんは一度深呼吸をして、それからタツミさんの前に歩いていった。タツミさんの前に立って。それから、深く頭を下げた。


「無理なことは承知です。できるだけで構いません。テルに良い防具を持たせてやりたいんです。手伝ってください」


 タツミさんは、首の後ろを掻いた。それから。


「分かってる。弟弟子おとうとでしの頼みは断れねぇ。全力を尽くすよ。使えるツテは全部使う。できることは全部する。約束するよ。だから、頭をあげてくれ」



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ギラゼルの中央公園。

 そこで、幼獣人シャルカ牛頭鬼ミノタウロスが並んで、噴水の流れる水を放心状態で見ていた。


「──全部ダメでしたね」

「──ああ。そうだったな」

「これから、どうしますか?」

「ああ。どうしような」

「なんか、適当な防具じゃダメなんですかね?」

「たぶん、キリはダメって言うだろうな」

「祝福付きの装備って、そんなに高価なんですか?」

「ああ。狙って付くものじゃないからな。四つ葉のクローバーくらいには珍しいものだ」

「そうなんですね。それは高そうです」


 そこで会話が切れた。

 結論は、お金がないのでどうしようもない、のだ。

 でも。──ふっと、思い付いた。

 祝福付きの道具は高いのだ。

 それだったら、売っても高いのではないか。


「祝福付きの物って、高いんですよね?」

「ああ。そうだ」

「じゃあ、これって高く売れますか?」


 そう言って、キリさんから貰った短剣ダガーを取り出した。

 それを見たタツミさんは、目を丸くした。


「ずいぶん懐かしいものが出てきたな! そいつは、俺が一番最初に作った武器だぜ。どうしてテルが?」

「キリさんにもらいました。キジナさんから貰ったものだ、って言ってました」

「そうそう。キジナさんに言われて、作ってみたんだよ。そのときにフウカってヤツも一緒でな。矛盾ほこたて勝負だ、って言って。俺は武器を、フウカは防具を作ったんだ。最初に作ったにしてはなかなかでな。初級だが祝福もついてて。あれは嬉しかったなぁ。そのあと、キジナさんが打ち直してくれて。それで今の強力な祝福がついたんだよ。懐かしいなぁ」


 そうか。タツミさんにとっては、大切な思い出の武器なんだ。それを売ると言うのは、よくない気がした。

 そんなボクの様子を察したタツミさんは。


「売ったら、結構な値がつくだろうな」


 そういって、こちらを見た。


「テルが良いなら、俺は構わない。テルが選べ」


 そういわれたボクは。

 短剣ダガーをしまった。


「キリさんからはじめて貰った武器です。できれば大切にしたいと思ってます」


 タツミさんは、ニィと笑って言った。


「そういってくれて嬉しいぜ」


 それから。一瞬、「あっ」という表情をしてた。


「おいおい、嘘だろ。なんでコレを忘れてた? これならワンチャン、安くて強力な防具を手に入れられるかもしれんぞ」

「え? 一体どうやって?」

「あるんだ。祝福以外にも、道具の性能を飛躍的に向上させることが。ただ──」


 その言葉の後に続く言葉は、決して良いものではないことを、ボクは知っている。


「ちょっと。──いや、だいぶリスクが大きくなる」


 タツミさんがこちらを見る。ボクの覚悟をきいているようだった。

 ボクは、深呼吸を一度して、それから頷いた。


「祝福と対になるモノ。──『呪い』だ」

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