第2話 どうやらこの本は攻略本らしい
本日はあと1話、20時過ぎに投稿予定です。
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この世界が俺の知る世界ではないことが分かり、俺はもう一度あの本を開いた。
この本が俺の心境の変化を察したのか、はたまたこの本がいうところの「ゲーム世界のシステム」が働いたのかは分からない。
ともかく、先ほどまで全く読めなかった文字が、何かの制限が解除されたかのように少しずつ読めるようになってきた。
だが、更に続きを読もうとしても、その先の文字は元の見たことのない文字のままで、まったく読めない。
どうやら一定の部分だけが段階的に公開されていく仕組みらしい。
俺は、現時点で公開されている12ページ目までを読み進めた。
その内容によれば、この世界はいわゆるダンジョンRPGのような設定で、レベルアップやスキルの習得を通じてダンジョンの奥深くを攻略していく流れだ。
まずは
更にギャルゲー要素があり、パーティーメンバーを獲得するには、攻略対象を相手に恋愛パートを進める必要がある。
その一方で、恋のライバルとなるハイスペックなイケメン、いわゆるスパダリ野郎も登場する。
3ページ目のキャラクター名鑑(1)には、早乙女シュン以外の名前はまだ読めない状態だ。おそらく、そこに攻略対象やスパダリ野郎の情報が現れるのだろう。
ただし、ボッチルートもあり、ボッチでも最強を目指すことは可能だ。
その上で攻略法として以下のことが書かれている。
・序盤で獲得すべき有能なスキルとその詳細。
・
・更には、序盤のマップまで付いている。
全部どっかで見聞きしたことのある設定だ。この世界はゲームだという言葉の意味が良く分かった。
だが、俺の心に少しだけ火が付いたのも事実だ。仕事仕事でゲームから遠ざかって10年以上経つが、俺だって、子どもの頃はゲーム三昧だった。
攻略本片手に、最強キャラの育成に励んだものだ。
これが噂のゲーム世界転生なら、思い切って最強を目指すのも悪くない。
俺は、ここまで読んで、ひとまず今日はこの少年:早乙女シュンをやってみようと決意した。
——そのためには情報収集だ。
部屋を見渡すと壁に吊るされている真新しい制服と、何も入っていない通学
さっき頭をぶつけた机の上には、入学式の案内と財布が置いたままになっていた。
——物騒な……。
と思いつつ、中身を見る。
お前が物騒なんだと自分に突っ込みを入れつつ、お札を取り出すと、見たことのない紙幣が数枚入っている。
単位は円だが、肖像画は髭を蓄えた和装のオッサンだ。
——誰だこいつ? 全く知らないぞ。
まあ、単位がぺ◯カでなくてホッとした。
さて、時計を見ればすでに8時をまわっている。
俺は、慌ただしく身支度を済ませると部屋を出た。
……目の前には、目指す
というのも、今いるこの部屋はその
入学式の案内によれば、式典は午前10時から始まる。まだ約2時間の余裕がある。
こんなに早く学校に来たのには理由があった。入学式を前に、俺には確かめなければならないことがあったからだ。
——この本が本当に信頼できるのかどうか……。
◇◆◇◆◇◆◇◆
入学式の数時間前、人気の少ない
さらに驚いたことに、施錠中の扉の電子ロックの暗証番号までがマップにきっちり記載されている。
俺は、試しに一つだけ防犯カメラの設置されていない施錠中の扉に暗証番号を入力した。
結果は、画面にグリーンの解錠のマーク。
この瞬間、俺はこの本を疑うのをやめることにした。
疑い始めればキリがないが、今の俺にはこの本以外に頼れるものがないのだ。
俺は、この本をひとまず『攻略本』と呼ぶことにした。
「ひとまず」と言うのは、この本には恋愛パートの攻略法が記載されていないからだ。もしかしたら今後何かしらの情報が公開されるかもしれないが、現時点ではそれらしい記述は一切ない。
それに、この世界が仮にゲームだとしても、クリア条件がまだ不明なのも気になるところだ……。
◇◆◇◆◇◆◇◆
入学式が行われる大講堂は、圧倒的な広さを誇っていた。普通の学校の体育館など足元にも及ばない。数千人を収容できる規模だ。
そのバカでかい箱モノの中央に今年入学するたった100名ほどの新入生が椅子に座っていて、更にその後ろに保護者が座る。
俺たち新入生の左側に居並ぶのが
司会を務める教頭は渋いイケオジで、男性教師はイケメンや屈強な体育会系が揃い、女性教師はなぜか皆美人ぞろいだった。これもゲームの世界だからなのか……。
来賓席には、総理大臣をはじめ何人もの大臣と、自衛隊のお偉方。更に、外国の大使まで顔を揃えていた。
だが、肩書は凄いが俺の知っている政治家の顔や名前ではないので、別に緊張したりはしなかったが……。
壇上に立つ校長の城戸という老人は、真剣な表情で、「君たちは選ばれし戦士だ」「命を惜しまず国家のために尽くしてほしい」といった挨拶を述べた。
校長の話によれば、ダンジョンでは簡単に人が死ぬ。しかし、戦わなければ人類にもこの国にも未来はない。
何とも恐ろしい世界だ。
本来なら、この場にいる全員が怯えてもおかしくないはずなのに、そんな様子は誰にも見られない。
それもそのはずだ。来賓として祝辞を述べた総理大臣が、「
そうなのだ。
この世界は、貴族制度が存在していて、名門貴族やダンジョンでの活躍が認められて授爵された新興貴族など、平民との間に明確な身分の差がある。
このあたりの事情については、攻略本にも大まかな説明が記載されている。
この会場に集まる生徒や保護者の中にも、そうした上層階級の出身者が多く混じっている。それぞれが自分なりの野心や思惑を抱きながら、ダンジョンに対する恐れを微塵も見せていない。
そんな中、一際会場をザワつかせたのが、生徒代表の歓迎の挨拶だった。
「おお!? セシル様だ!」「ホ、ホンモノだ!!」「エー、超カワイイ!」
厳粛な空気を破るように、周囲から感嘆の声が次々と漏れ聞こえる。
美しいプラチナブロンドの髪を軽やかに揺らし、まるで光をまとったかのような少女が演壇へと上がった。
身長は170センチほどだろうか。それにしても、その容姿は圧倒的だった。この距離からでも彼女が放つオーラの凄まじさがはっきりと伝わってくる。
何より、スタイル抜群だ。スラリと長い脚。女性らしい豊かな曲線美が見る者を魅了する。
俺は、思わず隣の奴に「あれは誰だ?」と尋ねてしまった。
隣の奴は、信じられないといった顔をする。
「お前、あのお方を知らないのか!? あの方はセシリア様だ。アルフォンス王国の王家に連なる公爵家のご令嬢だぞ。この
隣の男はウットリとした表情で彼女を見つめている。
「諸君! ようこそこの
その口調はどこか宝塚の舞台を思わせるものだった。ただ、本物の宝塚を真剣に見たことがないので、あくまでイメージにすぎないが……。
ともかく、セシリア嬢の歓迎の挨拶がすべてをかっさらって入学式は無事終わった。
だが、俺にとっての本番はここからだ。
入学式が終われば、次はクラスでのホームルームが始まるのだから。
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捕捉:この世界の貴族は、かつての華族とは異なる存在である。
名門貴族……由緒ある名家が、ダンジョン誕生初期に
新興貴族……ダンジョンの深層を攻略し、新たな資源を持ち帰るなど顕著な功績を挙げた平民の能力者が、爵位を授与されて築いた新しい一族。子爵や男爵の爵位を持つ。
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新作第2話でした。
本日は後1話投稿致します。
第3話は 20時過ぎ に投稿致します。
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