ゲーム世界で攻略本を手に入れた俺は、逃走スキルで成り上がり、陰険姑息なスパダリどもに立ち向かう!

森林一樹

1章 

第1話 どうやらここはゲームの世界らしい



 昨日の疲れが全く抜けず、朝だというのにスッキリしない。


 今日もまた、満員電車から始まる苦行の一日が始まるのだ……。


 俺はベッドから起き上がり、洗面所に向かおう……としたが、何かに足を引っ掛けて派手に転んでしまった。


「いてぇ……クソッ、なんだよこれ!」


 足元には見慣れない分厚い本が転がっていた。革張りで、金属の装飾が施してある豪華な本だった。


 こんな本、俺の部屋にあった覚えはない。


 不審に思いながらその本を手に取り、何気なくページをめくってみた。


——何語だ? 全然読めない。


 見たこともない奇妙な文字が並んでいる。アラビア語のようにも見えるが、装飾的で独特な横書きの文字だった。ところどころ空白があり、その周囲に文字が配置されている。


 意味が分からずにパラパラとページをめくり続け、最初のページに戻ったところで、なぜかタイトルだけは読めた。


『 § アビスガイド ~ 深奥を極めんとする者へ § 』


——何だ? スピリチュアル系の自己啓発本か?


 だが、次の瞬間、横書きのタイトルに続いて1ページ目の文章がベールを脱ぐように読めるようになっていった。


『 この世界はゲームだ。君も最強の探索者シーカーを目指せ………… 』


——は? ふざけてるのか。


 こんな豪華な装丁の本にこんな内容? 呆れた俺はその本をベッドに投げ捨てた。


 その瞬間、違和感に気づいた。 


——これは、俺のベッドじゃない。ていうか、この部屋は俺の部屋じゃない!


 今更ながらに気付く俺。


 まるで引っ越したばかりのように、ベッドとテーブル以外はほとんど何もない殺風景な部屋だった。

 

 昨晩、何かの拍子で部屋を間違え、知らない誰かの部屋に入り込んでそのまま寝てしまったのだろうか……。


 そう考えれば、さっきの奇妙な本が置かれていたのも納得がいく。


 朝から冷や汗が止まらない。


 昨夜の出来事を思い出そうとするが、どうしても記憶が曖昧だ。


――こんなことをしている場合じゃない!


 もし、この部屋の住人に見つかったら、住居不法侵入で犯罪者になってしまう。


 その事実に気づき、一気に焦りが募る。とにかく早くこの部屋を出なければならない。


 慌てて部屋を出ようとしたその瞬間、俺は再び動きを止めた。


 壁にかけられた鏡に見知らぬ人影が映ったからだ。


「ひぇっ!」 変な声が出た。


 この部屋の住人がいたと思ったからだ。


 だが違った。鏡に映ったその姿をじっくり見て、俺はさらに焦りを覚えた。


——だ、誰だ、こいつ!?


 鏡に映っていたのは、ほっそりとした体型で、サラサラの長い髪を持つ若者だった。


 どおりで、さっきから鬱陶うっとうしいわけだ。この長い髪が邪魔で目にかかる。


——って、そんなこと言ってる場合じゃないだろ!


 自分にツッコミを入れながら、前髪をかき上げる。


「うおっ!?」またもや驚きの声を上げてしまう。


 そこに映ったのは、女顔の、いや最近そういう表現はまずいのか……。そう、中性的! 中性的な顔立ちの少年だった。


 優しそうと言えば優しそうだが、正直頼りなさそうな印象の。


——あわ、わ、わ……。


 俺は何が何だか分からなず、鏡から後ずさりで逃げた。で、その拍子にまた足を滑らせて転び、後ろにあった何かに後頭部を強打する。


「痛ぇー! チクショウ!!」


 俺は今朝、二回目の怒りの叫声きょうせいをあげた。


 後頭部を押さえながら振り返ると、それは机だった。


 どうやら軽いパニック状態だったらしい。机にぶつけた痛みで、ようやく冷静さを取り戻した。


『この世界はゲームだ!』


 次の瞬間、さっきの本の冒頭部分が急に頭をぎった。


 何か胸騒ぎのようなものを感じ、ベッドに放り投げていた豪華な装丁の本をもう一度手に取る。


『……この世界の挑戦者である君は、探索者学園シーカーズアカデミー入学式に参列し、これから挑むダンジョンへ思いをはせる。


 ただし、入学式後のホームルームでは目立ってはいけない。ひたすら黙っていよう。なぜなら、スクールカーストは最初からでき上がっているのだ。


 まずは序盤のキャラクタービルドを進めよう。


 ビルドの方向性は選んだキャラクターによって千差万別だ。ただし、君が最強を目指すなら、序盤の行動を誤ってはいけない。※詳細は序盤の最適ムーブ参照


 ダンジョンは危険な場所だ。準備を怠るな! 校舎内に設置された探索者シーカーズギルド公式ショップで必要なものを揃えよう。


 先ずはポーションを必ず購入すること。※詳細はマップを参照 …………』


——攻略本か? 


 俺の正直な感想はそれだった。革張りの豪華な装丁にもかかわらず、中身は安っぽいゲームの攻略本そのもの。


——読んで損した。


 何を期待していたんだ、と自分に呆れつつ、もう一度本を投げ捨てようとしたが、ふと立ち止まる。


 そうだ。まったく見たことのない文字だったはずなのに、このページだけは読める。


 どういうことなのか全く理解できない。


 俺はさっきの続きを読む前に、次のページをめくってみた。


——キャ、キャラクター名鑑だと!?


 見開きの右ページには、またしても驚くべき内容が記されていた。文章に加えて画像も添えられている。そこに映っているのは、さっき鏡で見た少年の写真だった。


 俺はもう一度鏡を覗き込む。間違いなく、それはだ。


キャラクター名鑑(1)


名前:早乙女サオトメシュン 16歳 

孤児院出身で両親の存在は不明

15歳で能力に目覚め、探索者学園シーカーズアカデミーに入学を決めた。

初期スキルは【 逃走 】


——はっ?


 初期スキル、逃走……。逃走だと!?


 モブだ。間違いなくこいつはモブキャラだ!


 俺は、この少年モブに転生した……。


――いやいやいや。信じませんよ。そう簡単に信じてたまるもんですか! まったく手の込んだイタズラしやがって。


 そう考えた俺は、部屋にあった型の古いテレビのスイッチを入れる。最近はテレビを全く見なくなったが、それでもこの時間なら朝のニュース番組をやっている頃だ。


 ニュースを見始めてから約10分。俺の心臓は早鐘のように激しく鼓動を打ち始めた。


——ここは、俺の知っている日本じゃない…………。


 俺は、どうやらこのモブキャラ「早乙女シュン」に転生してしまったらしい。



  

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 ということで新作です。何卒宜しくお願い致します。


 本日は後2話投稿致します。第3話までがプロローグです。まずは、そこまでお付き合いください。


 第2話は 12時過ぎ に投稿致します。

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