第9話

 それはそうと、とリュネを置いていったパーティのことを聞いてみることにした。

 彼にとって良い記憶とは言えないが、妾としては恋のライバルがいるのだ。聞かないわけにはいかない。

 


「しかし、お前も悪よのう。二人の女の心を手駒にするとはなあ」


「…………?」


「え? あのパーティの面々に好かれていただろう?最後は色々あったが」


「ふ。観戦していたのに何を見ていたのだ」


「ん? 違うのか? ヒーラーちゃんお前のことよくみていたし好んでいたんじゃないか? あのリーダー……勇者だったか――ともよい戦友に見えたのだがな」


 妾がそういって茶化す。

 リュネは肩を震わせていた。羞恥とかではない。

 


「ふふふ……」



 こいつも大笑いできるのか。

 どこが笑いどころかわからない。いや……笑っているようで違う。これは己を笑っているのだろうか?

 血に濡れた口を歪ませている。

 これはちょっと怖い。


 ハンカチを渡したのだから口元をもう一度拭いてほしい。

 ひとしきり笑ってから、リュネからパーティのことを説明してくれた。



「変な恋愛小説でも拾ったのか?


 アウディア――お前の言うヒーラーが私を見ていたのは殺意からだ。いつ毒薬を飲ませようか考えていたのだろう。殺気が隠せない頭の悪い女だ。

 魔術師がいつ動くかわからなかったが、あそこで召喚術を使ってわざわざ一芝居打つとは思わなかった。

 一番うまい立ち回りをしていたのはウィン……武闘家だったか。魔物と混戦した時に魔法が私へ向けて放っていたな。

 私が推薦したものだが……今思えば私に推薦してもらう手筈だったのだろう。元々の立ち位置も武闘家ではなく魔法使いだろうな。見抜けなかった。

 パーティの思惑はわかっていた。それでも私は同行しないわけにはいかなかったのだがな。

 ……もうどうでもいいよ」



 そのまま闇夜を進む。

 妾の想像とは真逆のものであった。


 拒否できない何かがあったと言うことが引っかかる。しかし、笑った後の、自暴自棄の混じった口調に妾は何も言えなくなった。

 リュネの言うことが確かなら、ヒーラーが見つめていたのも恋ではない。彼らが言い争いをしていたのもただの演技。もしも第三者に見られていても言い訳できるように。


 まさに彼らは演じていたということか。


 このリュネの笑いも己を中傷しているものだったのだろう。


 あっけに取られてこの岩窟の左右のランプを灯すのも忘れてしまう。と言っても、もう必要は無いか。


 

 ――内にここまで闇を秘めていたとは。

 そう言う意味だとリュネも解放されたのだろうか?



 颯爽と漆黒の道を進むリュネ。

 パーティのことはとりあえず置いて、さっさと行こうとするリュネ。妾は制止させようと試みる。


 

「待て」

 

「……」



 返事はない。

 慌てて生暖かい血を入れたボトルを持ってリュネについて行く。妾抜きだと罠も解除しなきゃだし、何より道に迷うはずだ。



「待て!」



 再三のことも聞かない。

 不貞腐れているのか。己を愚かだと卑下していた。話を聞かせてしまったから羞恥しているのか。妾としてはリュネの闇を知れて願ったり叶ったり。

 妾からみた夢恋物語は紛い物。実際の水面下では緊迫感と殺気の満ち溢れたパーティだったとは、人とは表裏の激しいモノだったか。



 それはそうと中々リュネが止まってくれない。


 ……流石に止まって欲しい。妾の幾度もの静止は耳に入れてくれない。



 強制的に停止魔法を放つ。

 若干力ずくで動こうとしている。人外化したおかげで妾の強力な魔法も効果が感じられない。


 

「待てと言うてるだろう! ここからは罠だ」

「!」

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