第22話 私はキノコ料理を考えたい(3)

 放課後。

 私は愛想よく「お会計1,088円となります」と金額を告げる。

 エプロンを着けた二十代前半くらいに見える男性のお客様が「領収証」とぶっきら棒に放ち、1,100円をブルー色のカルトンに乗せた。


 私はお金を預かり、釣銭12円と共に領収証をお渡しする。


 男性客は購入した商品をサッカー台で袋に詰めると、とある一点を見つめ立ち止まる。


「ふん、ハンバーグ一択だろ」


 男性客は呟き、シールを貼らず去って行った。


(うんうん。後でハンバーグに貼らせてもらいますね)


 それから、次にレジへ向かってベビーカーを押すお客様へ「いらっしゃいませ」と駆け寄り、仕事を再開させた。




 閉店時間となる十八時半。

 最後のお客様を見送り、シャッターを下ろす。

 三十分かけて片付け清掃を済ませ、事務仕事をする采萌さんを待つ間、掲示していた模造紙へ近寄り、ハンバーグと書かれた個所にシールを貼る。


「みんなハンバーグ好きなんだなぁ」


 急ごしらえであつらえた『夜ご飯に食べるなら!?』と書いたアンケート。

 お昼休みに三人から話を聞いて参考に作らせてもらったアンケート。


 菜花ちゃんが言った『キノコのから揚げ』。

 木之香ちゃんが言った『キノコハンバーグ』。

 白菜ちゃんが言った『キノコグラタン』。


 どれも魅力的で美味しいから、もっと均等に接戦するかと予想していた。

 けど、蓋を開けてみた結果はハンバーグの圧勝に終わった。


「おーし、帰るぞー」


 采萌さんが離れた位置から呼び掛ける。

 慌てて模造紙を回収し、采萌さんの元へ駆け寄り裏口から退店する。


「もっと接戦すると予想したんだけどなぁ」

「あの三択なら当然だろー」


 ということは、采萌さんもハンバーグ派ってことか。


「まー冬だったらグラタンも接戦したかもだけどなー」


 確かに。暑い夏にグラタンを選ぶ人は、よっぽどグラタンが好きなのだろう。


「から揚げはなんでダメだったのかな?」

「あまり身近な食べ方じゃないからなー」


 つまり想像しにくいことも敗因の一つかもしれない。

 絵や写真を付けたり、試食があれば違った結果になったかもしれないな。


「ちなみに采萌さんは夕飯に何が食べたい?」

「パスタもありだなー」


 まさかの選択外だけど、今の時間でも気温が下がらないから気持ちは分かる。


「暑いと麺が食べたくなるよね」


「疲れたからハンバーグでもいいけどなー」


「じゃあ、今日は両方にしよっか」


「いや、腹も減ったしパスタだけでいいぞー」


 そうこう会話する間に「ただいま」と、徒歩一分少々で帰宅を果たす。


「聞いてなかったけど采萌さんは何にシール貼ったの?」


 靴を脱ぎ、スリッパに履き替えた采萌さんは「ハンバーグ」と短く答えた。


「やっぱり両方作るよ」


「苺も疲れただろ? どっちかだけでいいぞー?」


「大して手間じゃないよ。それに私も食べたいし、ハンバーグは多めに作ってお弁当に入れてもいいかなって」


 返答に珍しく逡巡させていたけど「実は食べたかったんだよなー」と、采萌さんが白状する。


「別に気なんて使わないでいいのに」


「いや、あれだ……今朝のことがあっただろー」


 つまり私を散々からかった手前、言い出しにくかったのか。


(……言ったら怒られるかな?)


 きっと怒られるよね。分かっている。でも言いたい!!


「毒キノコは入れないから安心してね!」


 振り返った采萌さんは、


 笑い茸を食べたのかってくらい満面の笑みだった。

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