第15話 警告

通村が赤木と遭遇していた頃、みさきは帰路についていた。

ふと、昨晩の出来事を思い出す。


「ねえ、お父さん、お母さん、お兄ちゃんのことが気にならないの?」

その言葉に両親は申し合わせたように苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「みさき、そんなことはどうでもいいんだ」

「そうよ、そもそも、私たちの子供はあなただけなんだから」

予想はしていたが、思っていた以上にあたりがきつい。

まさか、子供であることを放棄するとは思ってもいなかった。


「でも・・・」

「みさき、もうこの話は終わりだ」

取り付く島もない。みさきは洋二のことを思い浮かべ、やるせない気分で胸が押しつぶされそうになった。

メールは送ったが返信はない。

兄が今、どこで何をしているのか、知る術がない。

両親は我関せず。ネグレクトというより、これでは虐待だ。


「お兄ちゃん、大丈夫かな・・・」

血が繋がっていないとはいえ、みさきには兄ができたことが嬉しかった。

そして、その兄が両親から腫物扱いされていることが、悲しくてやるせなかった。



「あれ?」

ふと気づく。みさきは考え事をしていたせいか、いつの間にか帰り道を間違えていた。

おかしい。いくらなんでも自宅までの道で迷うなんて有り得ない。

だが、実際にみさきは知らない道を歩いていた。

住宅街だが、どの家にも電気が点いていない。まるでゴーストタウンだ。

みさきは言い知れぬ恐怖を覚え、急いで鞄からスマホを取り出して現在地を確認しようとした。

「嘘でしょ?」


圏外


まるで異空間に閉じ込めれたようだ。

カチ、カチ、歯の根が合わない。


怖い、助けて・・・


祈るように目を閉じる。

「そんなに怖がらないでくださいよ」

みさきのすぐ耳元で若い男の声が聞こえる。その声は茶化すようで、みさきのこの状況をあざ笑うようだった。


「嫌!もう!なんなの!」

ふと、兄が姿が視えないが声だけが聞こえると言っていたことを思い出す。



「そう、あなたのお兄さんのことです。いや、お兄ちゃんと呼んだほうが良いですか?」

みさきには何も見えない。ただ、声だけが聞こえる。

しかも、みさきと洋二の関係性を知っているような口ぶりだ。


「あなたのお兄さん、洋二さんでしたか?少々、厄介なことになりまして。はっきりいって邪魔なんですよ」

吐き捨てるような物言い。みさきは恐怖で何も言い返せなかった。


「あなたに危害を加えるつもりはありませんが・・・まあ、警告だと思ってください」

男の声は冷淡で、憎しみに溢れているように聞こえる。

「け、警告って、お、お兄ちゃんが・・・」

みさきは声を振り絞ったが、「それでは今日はここで失礼します」と言葉を残し、男の気配は完全に消え去った。


震える手で握っていたスマホを見ると、圏外ではなく、普通にアンテナが立っている。

「え、え?どういうこと?」

みさきは辺りを見回した。いつもの帰り道。見慣れた光景。

「夢?いや、そんなわけない・・・」

みさきはその場に座り込んでしまった。体が酷く疲れている。

「もう嫌!」

みさきは涙を流しながら、何度も何度もアスファルトに手を叩きつけた。

赤い血が流れ出ていることが生きている証拠だと自分に言い聞かせながら。

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