第12話 イージーモード・ノーマルモード
「今回はイージーモードのはずだったんですけど、どうもそうではなかったみたいですね」
青木は悪びれる様子など微塵もみせず、まるでゲームの設定のような物言いをする。
『洋二、どうするつもりなの』
「どうするもこうするも金の為だ。俺に選択肢はない」
通村は青木を見据えたまま、口を動かさず、ミナミにそう答えた。
「一度、話を整理しましょう。今回の調査で通村さんの滞納していた1カ月分の家賃をまとめて大家さんにお支払いします」
下手をすると見ず知らずの老婆に絞殺されていたのかもしれないのに、随分と安い報酬だ。
しかし、主導権は青木が握っている。この状況はしばらく続くだろう。
「通村さん、これはチャンスなんです。通村さんは退去せずに済む。そして借金も返済・・・まあ、全額とまではいかないでしょうけど」
「青木さん、確かに俺には借金があります。でも、聞いていた話と違いすぎます」
『洋二、そうよ、もっと言ってやんなさい!」
青木に聞こえていないがミナミが通村に声援を送っている。
「まあまあ、落ち着いてください。通村さんに適性があったようなので、報酬は当初よりも予定した以上の金額をお支払いします。どうです?悪い話ではないと思うんですけど?」
どう考えてもハイリスクハイリターン。
いや、本当にハイリターンになるのかも怪しい。ハイリスクで終わる可能性もある。
ブルル、テーブルに置いていた通村のスマホがバイブレーションでカタカタと音を立てて動き出す。
通村はおもむろにスマホを持ちあげるとメッセージが届いていた。
送信相手は義妹のみさきだった。
「最近どう?元気にしている?あと、お金は大丈夫?生意気なことをいってごめんね」
タイミングが悪すぎる。
この状況でみさきから金の心配をされてしまっている。
「いやあ、本当に優しい妹さんですね。羨ましい」
青木はめざとく通村のスマホを覗きむと、大袈裟に首を縦に振った。
「俺には選択肢がありません。嫌ですよ、本当に嫌ですけど、青木さんの提案に乗るしかないんです」
通村は観念した。そして覚悟を決めた。
『洋二、気持ちはわかるけど、それで良いの?』
「良い、悪い、じゃないんだ。やるしかないんだよ」
『あ、そう。でも私にだってできることとできないことがあるからね。それだけは覚えておいてよ?』
「どうしたんですか?通村さん、なんだか心ここにあらずみたいな顔をしていますけど?」
気が付くと青木が訝し気な表情を浮かべていた。
「いや、なんでもないです。こっちの話ですから」
「はあ、なんだかよくわかりませんけど、次の案件の話に移ってもいいですか?」
通村には、世間話でもするように語る青木の顏が酷く醜くく、そして残忍に思えた。
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