第11話 謎の居住者+謎の居住者、更に次へ
そもそも、ミナミの存在さえ通村にはわかっていない。
それでも、良しとしてきた。そう思うようにしてきた。
だが、今回のケースは違う。
内部から発生したものではなく、外部から発生したものだ。
『洋二、まだ考えているの?』
通村の一時入居が決まってから2日経った。
初日に絞殺されそうになったが、あの出来事が悪夢でもみたように静寂に包まれている。部屋の中を漂っていた、どんよりとした空気も消え去っている。
「なあ、これって俺に憑いているってことなのか?」
『何回も同じことを聞かないでよ。そうと言えばそうだし、違うといえば違うの。あんたもしつこいわね』
ミナミは通村の問いに曖昧に答えるだけで、知らん振りを決め込もうとしているようにしか思えなかった。
『とにもかくにも、ここはもう大丈夫。あんたにはお金が入る。ここには新しい入居者が安心して暮らせる。青木の言う通り、win-winじゃない』
「あーちきしょう!」
通村は苛立ちを覚え、煙草に火を点けた。
「通村さん、煙草を吸うときは外で吸ってくださいね」
青木にはそう言われたが、通村はそんなことなどお構いなしに火を点けた。
だが、口から吐き出る煙が、霊魂のように見えてしまう。
『通村さん、煙草なんか吸わないほうがええよ。早死にするでえ』
ミナミでない。老婆の声だ。姿は視えないが、声だけは聞こえてくる。
ミナミのように頻繁に語り掛けてくるわけではないが、常に誰かに見張られているようで通村は気が休まらなかった。
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「え?嘘でしょ?そんなことがあったんですか?」
青木との約束は1カ月だったが、通村のことの顛末を電話で伝えると1週間でOKを貰い、老婆を引き連れたまま初めてのアルバイトは終わりを迎えた。
不動産会社ではなく、通村を迎えに来た青木は全国展開しているチェーン店で車を降りると「御馳走しますよ」と嬉しそうな笑みを零した。
だが、通村にはそれが恐怖を隠そうとしているのが見てとれた。
「ささ、どうぞ座ってください。それと好きな物を注文して構いませんから。どうせ経費で落とせます。遠慮なんかしないでください」
通村は青木が自分のことを見下していたことに気付いていた。
だが、今回の1件で、青木と同レベルまであがることができたようだ。
それは別段、喜ぶようなことでもなかったが。
「俺はコーヒーで良いです」
「遠慮しないでくださいよ。しっかり食べて英気を養ってください」
英気を養うということは、次が控えているということだ。
通村は運ばれてきたお冷で喉を潤すと、青木の出方を伺った。
「いやあ、通村さんって霊感が強いんでですね」
「霊感というか、そういう非科学的なことを言うと、頭がおかしいと思われそうなので言わなかっただけです」
「僕は信じていますよ。まあ、僕はビビりなんで、お化けなんて真っ平御免ですけど」
いけしゃあしゃあと言えるものだ。
そんなところに放りこんでおいて、真っ平御免とは呆れてしまう。
「それで、なんですが・・・一応、今回のことを纏めて、通村さんには次の物件に行って頂きます」
はあ・・・
通村は店内に響き渡るほどの大きな溜め息を吐いた。
それくらいしか抵抗する術がなかった。
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