第6話 助力

みさきと別れると、すぐにミナミが話しかけてきた。

『本当によくできた妹よね、感心しちゃう』

「ああ、俺もそう思う」

「洋二、今更だけど、私の存在はあんたの中でどうなっているの?』

「考えるのを止めた。わからないものはわからない」

『まあ、それで良いじゃんない。私だって用事との関係がわからないんだから』

「それをお前が言うなよ・・・」


みさきに言った通り、ミナミとは会話が成立している。これはこれで問題なのかもしれないが、通村にとってはそれで良かった。



みさきには事故物件のアルバイトのことを話せなかった。

もちろん、家賃を滞納して追い出されそうになっていることも。


通村と両親の関係は悪化したまま。

おそらく修復するのは無理だろう。沈没していくのを見ていることしかできない。



Fランと揶揄される大学に一浪して入学して、通村は小さな印刷会社に就職した。

父親はすでに怒り心頭だった。


出来損ないの息子。しかも、幻聴が聞こえるときた。

通村はすでに沸騰しているヤカンを爆発させるように、就職してたったの半年で会社を辞めた。

営業成績がだせない。上司からのいびりと叱責。

元々、気の弱かった通村は耐え切れず、逃げ出した。


このことが決定打になった。


ニートになるつもりはなかったが、両親は激怒した。

「出ていけ!!お前はこの家に相応しくない!」

あのときの父と義理の母の顔を忘れることはできない。


汚物を見るような、侮蔑と憤怒が入り混じった声。

通村は手切れ金として30万円を渡された。

この金を受け取るということは、家に戻れない証明になるが、通村は黙って金を受け取ると、生まれ育った家と決別した。



「いわくつきの事故物件か・・・やっぱり嫌だな」

通村はミナミに問い掛けるわけではなく、独りごちた。

ミナミは何も話し掛けてこない。

「こういうときはだんまりかよ」

通村が毒づくと聞き覚えのある声が頭の中で木霊した。

『失礼なことを言わないでよ。言ったでしょ?止めた方が良いって』

「でも、それしか方法がないんだよなあ」

『洋二、先に言っておくけれど、私のことを当てにしないでね。私にもできることとできないことがあるんだから』

「は?どいうことだ?」


ミナミは何も言い返さない。

言うべきことは言った。後は自分で考えろということなどだろうか?

通村は肩を落として家路に着いた。


夕陽が眩しく通村の顔を照らす。

だが、通村にとってそれは希望の光ではなかった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る