事故物件請負人 通村洋二

モナクマ

第1話 取り引き

「また家賃が滞納して困っているって大家さんからクレームがきているんです。

正直言って、うちも困っているし、迷惑なんです」


そう言うと、通村洋二みちむらようじにアパートを紹介した青木は顰め面をして、何も言い返してこない通村を一瞥してから大きな溜め息を吐いた。



3月の大雪が地面を覆い、寒さが暖かい空気へとバトンタッチしようと準備を始めたあくる日のこと、通村は賃貸契約を結んでいる不動産業者へ呼び出され、青木から3回目の愚痴を聞かされていた。


「ねえ、通村さん、私の話を聞いていますか?」

「ええ、まあ・・・」

通村の煮え切らない態度に青木は内緒話をするように、手で口元を隠した。


「原因はやっぱりギャンブルなんでしょ?」

「まあ、そう言えばそうなんですけど・・・」

前に言いましたよね。通村さんはギャンブルに向いていないって。それに通村さん、今年で30歳ですよね?定職に就かないでアルバイトをしているってどうかと思いますよ」


青木は容赦なく通村を責め立てる。

だが、通村は何も言い返すことができない。

青木の言う通りだ。コンビニで夜勤のバイトを週4日。

10万円ちょいの収入なのに、通村をそれをパチンコや競馬に費やした。


一発逆転。

ギャンブル狂の考えそうなことだった。

パチンコで20万円以上勝った日があれば、1日で15万円以上負けた日もある。

むしろ、後者のほうが多い。

それでも、通村はどうにか取り返せると気楽に考えていた。


「大家さんがかなり怒っていて、今回も延滞するなら退去してもらうって言っているんですけど、どうするんですか?」

「どうするも何も・・・」

言葉が続かない。

通村はすでに消費者金融からそれなりの金を借りていた。

バイト代で返す当てはない。通村にとっても八方塞だった。


「親御さんに連絡をとってみてはいかがですか?」

「いや、それだけは勘弁してください」

俯いていた通村は、青木のその言葉に短距離ランナーのスタートダッシュのように瞬時に反応した。


「まあ、通村さんだってもう三十路ですもんね。いい歳をして迷惑をかけたくないっていうのはわかるんですけど・・・」

青木は勘違いしているようだが、通村は両親に迷惑をかけたくないのではない。

関わりたくないのだ。だが、そのこと青木に話したくないし、話す必要もない。


「あれもダメ、これもダメじゃ、解決できないし、通村さんは強制退去ですよ」


青木は顰め面をすると、通村へ差し出されたお茶をひょいと掴んで喉へ流し込んだ。

二十代後半とだけ知っている青木は、一見すると詐欺師の顔をしているように思えた。おそらく作り笑顔が多すぎるせいだろう。さすがに大学生には見えないがそれほど苦労をしているようにも見えない。


「通村さん、私に1つ提案があります。もしその話に乗ってくれるというなら、事態は良い方向へ向かうはずです。どうです、興味がありませんか?」


そう言うと、青木は悪戯っ子のような笑みを浮かべ、品定めをするように通村をまじまじと眺めた。


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