第28話 周囲の声に滝川の具合が悪くなる
女子トイレで滝川が手を洗っていると通路から男子たちの話す声が聞こえてきた。
「騎士様ってさー。ほんと高嶺の花だよなー」
「わかる。美人だし完璧だし。釣り合う男子っているのかね」
「でも公太にめっちゃ一途なんだよな。ずっと愛してるアピールしているし」
「確か入学式の日に告白したって聞いたことあるな。羨ましい」
「いや、案外そうでもないかも。滝川さんって完璧だけど完璧すぎて手が届かないっていうか、どんな男子が隣に並んでも比較されそうな気がするじゃん」
「ああー。滝川さんと比較されたら辛いな。誰も勝てないだろ」
「だからこそ公太なんじゃない? 公太ほど落ちこぼれって見たことないし。
学年一の劣等生と優等生でうまいことバランス取れてるっていうか無いものを求めているっていうか」
「ひょっとすると滝川さんってさ、公太を愛しているんじゃなくて、ダメな奴を構っている自分が好きなんじゃないの?」
ケラケラと笑って遠ざかっていく男子の声に滝川は唇を強く噛んだ。
彼らは何もかも誤解している。
自分が優等生になったのは公太を支えたかったからだ。
相応のスペックが求められるからだ。生半可な有能さでは彼の両親は交際も騎士としての使命も認めてくれるはずがないとわかっているからだ。
最初から完璧だったわけじゃない。公太のために完璧と呼ばれるレベルにまで自分を高めたのだ。愛する人を守り続けるために。
けれど、と滝川は思った。
もしも自分の存在を公太が重荷を感じているとしたら?
彼の苦痛を減らすのならばある程度の距離を置くのが正解な気がする。
嗚咽と共に涙が溢れた。拭っても拭っても涙が流れ、強烈な吐き気がきた。
洗面台で胃の中のものを全て戻していると、背後から声をかけてくるものがいた。
「麗ちゃん?」
涙でぐちゃぐちゃの顔で振り返った滝川が見たのは針山だった。
「針山……さん」
「ちょっと、顔が真っ青なんだけど大丈夫⁉ 保健室行こう?」
「気にしないで……ちょっと具合が悪くなっただけだから、早く教室に戻らないと公太君が……」
「公太君のことは私に任せて保健室で休んでて!」
針山は有無を言わさず滝川に肩を貸して保健室まで連れていくと、彼女を先生に任せて教室に戻り、公太に簡潔に事情を伝え、今はそっとしておくように、様子を見るなら放課後がいいことを助言して授業の準備をした。
授業を受けながら針山は思った。
風変りだけど確かな絆で繋がっているふたりの関係に少しずつ亀裂が走っている。
これは早急に応急措置を施さないと大変なことになる。
それにはまず公太の思い込みから解消しないといけないと彼女は考えた。
授業が終わって針山は公太に声をかけた。
「今度の土曜日、時間あるかな?」
「え。あるけど……」
「じゃあ喫茶店でお喋りしない?」
「いいけど、滝川は」
「麗ちゃんは呼ばないで。騎士にもたまにはお休みが必要だから」
「うん。わかったよ」
「あ、告白とかそういうのじゃないからそこだけは勘違いしないでよね!」
ちゃっかり釘をさすことも忘れない。
下手な誤解を生むとそれだけ問題がこじれることになるからだ。
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