第23話 滝川の夏の願い

りんご飴をおごってもらったので今度は私が公太君と針山さんに綿あめをごちそうすることにした。


「お祭りで食べる綿あめって特別感あるよね」

「大きいから三人で食べよう」


綿あめは口に入れるとスッと口の中で儚く消えてしまう。

口当たりが軽いのでいくらでも食べることができる。

三人で食べ進めて、気が付いたら完食していた。

りんご飴に綿あめを食べたけれど、私はまだお腹が空いていた。


「やっぱり夏祭りといえば、焼きそばだよね~! 濃厚なソースの匂いがたまりませんなあ」


煙に混じる濃厚なソースな香りにつられて、針山さんが焼きそばの屋台で足を止めた。

夏祭りの焼きそばといえば、定番中の定番だろう。

わけあうにしては量が足りないと思ったので、ここはひとりひとパックずつにした。

チュルチュルと針山さんはおいしそうに食べている。

青のりの爽やかな香りに紅ショウガのアクセント、麺もすすりやすくて助かる。

公太君も夢中で食べ進めていたけれど、口の周りにソースをたくさんつけていたので拭いてあげた。でも汚れも気にせず食べる姿が豪快で好きだったりする。


「滝川、あーん」


公太君が口を開けるように指示を出す。

爪楊枝に刺さったタコ焼きがプルプルと揺れている。

私は意を決して食べた。

焼きそばと同じく夏祭りの定番メニューだけど、愛している人から「あーん」で食べさせてもらえるなんて奇跡みたいだ。


「私もお返ししても、いいかな」


私も公太君の口の前に爪楊枝でタコ焼きを持っていく。

上目遣いで見つめる彼の瞳がふるふると潤んで、たまらなく可愛い。

小さな口でタコ焼きをぱくり。

口から白い湯気が噴き出す。

はふはふと煙を吐いて涙目になりながらもこくりと飲み込む。


「おいしい……」

「フフッ、ふたりともラブラブしてますなぁ」


芝居かかった口調で針山さんが言ってくるけど、彼女もどこか嬉しそうだ。


「針山さんも愛の輪に入ってもいいんだよ」


彼女の口にもタコ焼きをおすそわけしてあげる。

目を真ん丸に見開いて驚いてから、タコ焼きを飲み込んでにっこり笑った。

タコ焼きを食べ終わってから三人で河川敷に移動して、打ちあがる花火を鑑賞する。

赤や黄色や青などの色とりどりの花火は夜空に映えて本当にきれいだ。


「今日、来てよかった……」


思わず呟くと、ふたりとも頷いてくれた。

きっとこの夏は私の一生の思い出になるだろう。

私は心の中で祈った。

来年も三人で夏祭りの花火を見れますように。


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