第17話 滝川もたまには名前で呼ばれたい

針山は学校の昼食は仲がいい滝川と公太と一緒に食べることにしていた。

この日は滝川がレタスとハムとチーズを挟んだベーグルサンドで公太がオムライス弁当で針山はエビチリ弁当だった。向かい合って食べるふたりを針山は観察する。

公太はフォークを使いながら可愛らしくオムライスを食べ進め、滝川は上品な食べ方でベーグルサンドを完食し、二個目の苺とホイップクリームのベーグルサンドを食べ始めている。ふと、針山は以前から疑問に思っていたことを訊ねた。


「公太君って滝川のこと名前で呼ばないよね。どうして?」

「苗字のほうがいいやすいから」

「それだけ?」

「うん」


滝川は名前呼びなのに公太からは苗字呼びというのは距離感があると思っていたが、特に深くない理由だった。


「滝川はそれでいいの?」

「苗字でも名前でも私は構わないよ。公太君が言いやすいならそれがいいよ」


こだわりはないらしいが、針山は目を輝かせ。


「公太君、一回でいいから私の前で麗ちゃんのこと名前で呼んでみてよ」

「わかった。麗」

「う、うん。何かな」


あまりに突然のことに恥ずかしさで顔を真っ赤にする滝川の反応に針山の口元がニマニマしていた。想像以上に面白い。


「麗はいつも僕を守ってくれるから、嬉しいよ」

「こ、公太君⁉」


名前呼びからの実質的な告白に滝川は顔中から煙を噴き出さんばかりに真っ赤になって狼狽している。騎士様の珍しい振る舞いに針山は嬉しい気持ちになった。

結局、公太が滝川を名前呼びしたのはこの昼食時間だけですぐ元に戻ったのだが、ふたりの関係はそれがベストなのかもしれないと針山は思い直した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る