第15話 騎士もたまには可愛い服を着る
滝川は試着室の中で深く長いため息を吐き出した。彼女が手にもっているのは白と赤を基調にした甘ロリファッションだ。滝川は赤が好きだった。この服も赤が入っているのは好みなのだが、ガーリーすぎるのではないかと思っていた。公太が喜々として選んでくれたのだが、自分には似合わないのではないと不安になるが、あれほど喜ぶ公太の気持ちを無下にできるはずもなく、とりあえず着てみることにした。
カーテンを開けて公太に姿を見せる。
「ど、どうかな……?」
「最高だよ! 長い脚が目立つしすっごく可愛いと思う!」
「あ、ありがとう」
「髪型もツインテールにしてみていいかな」
「う、うん」
頷くと同時に公太は滝川の髪をツインテールにまとめていく。
彼は可愛いものに目がない。そういえば、と滝川は過去を思い返す。
祖父にクマのぬいぐるみを捨てられそうになったときも凄まじい泣き方だった。
滝川を守った男らしい部分は彼の本来の面もあるが、祖父の教育によるものが大きい。
素はどちらかといえば可愛いものや癒し系を好むタイプであることは滝川も理解していたが、こうして勧められると困惑するしかない。
カーテンを閉めて試着室にはめられている鏡に映る自分の姿はツインテールで甘くていつもの自分とはかけ離れている。
眼鏡の奥の瞳が戸惑い気味に揺れている。
スカートは制服がセーラー服なので着慣れているが、滝川は騎士を理想としているので必然的にパンツルックが多く、こういった可愛い系の服はあまり着ない。女らしさを求められた昔を思い出すのがなんとなく躊躇いがあったし、似合わないと思っていたから。
けれど最愛の人が大喜びする姿を見ると、自分の中での似合う似合わないはともかくとしても、定期的に甘めの服装をしてデートに誘うのもいいかもしれないと滝川は考えた。
もっとも万が一誰かと戦闘になればフリルの多い服は戦いに向いていないだろうが。
着替え終えて試着室を出るとにっこり笑って言った。
「この服、買うことにするよ。今日の思い出にね」
「うん! それがいいよ!」
自分の好みも大事だが、それよりも大切なのは主の顔を曇らせないこと。
ここで我を張れば公太が悲しむのは目に見えているし、この服が役立つことがあるかもしれない。
スマートに会計を済ませて公太をエスコートしてデパート内のカフェに寄る。
牛乳が多めのカフェオレを少しずつ飲みながら、公太と何気ない会話をする穏やかな時間が、心と体の休養となり、滝川にとっては幸せにつながっていた。
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