第4話 その一口が尊くて

向かい合って席について滝川は目を半弧にして笑った。

彼女はケチャップのオムライス、公太はホワイトソースのオムライスを注文した。

ふわふわの卵の柔らかさと濃厚な味、ケチャップソースの甘さが病みつきになる。

食べ進めていると自然と公太の顔が目に入る。よほどおいしいのか彼は夢中で食べ続けている。ちょっとだけ申し訳ないなと思いながらも提案してみる。


「公太君、もしよかったら君のオムライスを味見させてくれないかな。私のもあげるから」

「……いいよ」

「ありがとう」


スプーンで掬って滝川に差し出すと、彼女は特に気にすることなく笑顔で食べて、自分のオムライスを差し出してきた。卵と米の絶妙な配分の掬い方だ。


「ホワイトソースもいいものだね」

「ケチャップもおいしい。でも、滝川、いいの?」

「何かあったのかな」


訊ねると少し俯いた公太は今にも消えそうな声で。


「僕なんかと間接キスしちゃって、いいのかなって。気持ち悪いよね」

「君に言われるまで気づかなかったよ。気持ち悪くなんかないさ。君が私の提案を受け入れてくれたから違う味を楽しむことができたのだから。他の人だったらこんなにおいしいオムライスなのだから、きっとひとり占めしてしまうだろうね。でも君は優しいから私に自分の分を差し出してくれた」

「一口だけだよ」

「その一口が尊いんだよ」

「……もうちょっと、食べる?」

「お言葉に甘えて」

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