幼馴染が完璧な騎士すぎて困る

モンブラン博士

第1話 滝川麗は噴水前で最愛の人を待つ

滝川麗(たきがわれい)は噴水の前で立ちながら本を読んでいた。

白のブラウスに黒いズボンのボーイッシュな装いは彼女の長い脚を映えさせていた。

文字を追う赤眼鏡の奥の碧眼は理知的に輝き、時折フッと口角をあげる。

ひゅっと吹き付ける風が彼女の鮮やかな金髪のポニーテールを靡かせる。

絵画から飛び出したかのような美しさに人目を集めるが、滝川は気にしない。

と、茶髪に染めた軽薄な印象の男が数人近づいてきて声をかける。


「彼女、俺たちとどっか遊びにいかね?」


滝川は本から顔を上げて彼らを一瞥する。目線が下がる。

自分たちよりも高身長である事実を突きつけられ、彼女の碧眼に男たちは息を飲む。


「こんなところで本ばかり読むのはつまらないよ? どっか行こう」


怯むことなく誘い続ける彼らに滝川は本を閉じて微笑して言った。


「もしかして、私に言っているのですか」

「そりゃそうだよ。他に誰がいるの」

「だとしたら、申し訳ありません。先客がいるものですから」

「そっか」


彼氏待ちと知って男たちは肩を落として踵を返す。

滝川は読書を再開するが、男たちは彼女の邪魔をしないように少しだけ距離を置いてそ立ち続けていた。

この金髪美人の彼氏がどれほどの男か興味が出てきたのである。

滝川は本を閉じて赤い手提げ鞄に入れると横断歩道を一瞥した。


「公太(こうた)君!」


おとなしかった滝川が喜びの声をあげた。

大きく手を振っていまにも駆け出さんとしている。

その様に男たちは一様に横断歩道の先を見た。

信号が赤から青に変わり男が近づいてくると、彼らは皆仰天した。

横断歩道を渡ってきたのは冴えない顔と小柄な体躯の少年だったからだ。

長袖の服は袖が余っており彼の手を完全に隠してしまっている。

横断歩道を渡りおえた少年に滝川は信じられないスピードで駆け寄って声をかける。


「大丈夫? どこも怪我していない? ひとりでここまでくると言い出したものだからすこし心配したけれど、こうして会うことができてすごく嬉しいよ。今日は素敵な時間を過ごそうね」


身長にかなり差があるためか、膝を屈めて熱い抱擁をしながら甘い言葉を囁く滝川に、ナンパ男のひとりが言った。


「えっと……その子は君の弟さん?」


滝川は振り返って爽やかなの笑顔で答える。


「いいえ。私の生涯守ると決めた人です」

「えっと、君、二十歳超えているよね? その子はどう見ても中一くらい……」


滝川は軽く首を振って。


「彼と私は同い年で、十五歳です。高校一年生です」

「はァ⁉」


告げられた年齢に男たちが愕然とする中、滝川は自然な動きで滑るように公太と手を繋ぐ。


「行こうか。公太君」

「で、でも滝川。いいの?」

「何がかな?」

「僕と一緒にいるより、あの人たちと過ごした方が楽しいと思う」

「私は君と一緒にすごす時間が何よりも幸せだから、気にしないで」


爽やかに言って赤から青に変わった信号を渡る凸凹カップルをナンパ男たちは、ただ見送ることしかできなかった。

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