第5話 神獣 フェンリル
フェンリルは未だレイラの氷から抜け出せずにいた。
(流石大魔法なだけあってこの氷は精度が高い…!)
下手に動けば体が割れるのに火を扱う魔法は得意ではないので慎重に動かなければならないフェンリルは焦りを感じていた。
(もうすぐ魔力も切れてしまう。おそらくレイラ達はこれが目的だったのだろうが…。)
そこでフェンリルは決断した。
「どうせ死ぬならやるしかないな…。」
フェンリルの生命力を使い
「最近作った魔法だから不安定が故に使いたくなかったんだが…。『ガイア』、後は頼むぞ。」
実体化した『ガイア』がレイラを殺しに行った。
〜〜
「!」
「?どうしたレイラ?」
「魔力の塊が猛スピードでこっちに向かってくる。それと同時にフェンリルがすごく弱ってる。」
「魔力の塊?ゴーレムってことか?」
「ゴーレム…を依代にしたガイアだと思う。」
「ガイアは意思を持ってるのか?」
「加護を持てばわかるよ。」
「簡単に言うなよ…。それで、どうすんだ?」
「ガイアは私が相手するよ。だからアベルはフェンリルを仕留めてきて。」
「…これを打ち込めばいいんだな?」
そう言ってアベルは杖の先端に溜まった魔力の塊を構える。
「うん。今のフェンリルならアベルでも殺せるはずだから。」
「わかった。死ぬなよレイラ。」
「任せて。」
アベルは森の奥に走って行った。
「さて…。」
レイラは再び空に浮く。
「ちょっと頑張らないとな…。」
そう言って杖を構えた。
〜〜
「…ふっ、小僧がくるか。」
「当たり前だろう?ガイアはレイラが相手をしてるから。」
「いや、ガイアに2人がかりで挑むと思っていてな…。」
「そんなに強いのか?」
「ああ、アレは俺よりも強い。」
「そうなのか!?」
アベルは考える。
今からでもレイラの応援に行った方がいいものかと。
(いや、それは最悪手だ。)
今レイラに任されたことはフェンリルの討伐。
今の俺でもできると信じてくれたから俺に任せてくれたんだと考え直すアベル。
「ふぅ…。」
意識を集中させる。
(たった一撃でいい…。この一撃を何よりも大切に放て。)
「…『
強烈な風の塊がフェンリルの胴体を撃ち抜いた。
「ぐっ…。」
一気に魔力を持っていかれ倒れかかるアベル。
(まだだ…。まだレイラは戦ってる。応援に行かなければ…!)
しかし、後ろでのそりと音がした。
「…まだ、やるか…!」
「神獣という肩書きがある故な…!」
魔導士と神獣が正面からぶつかり合った。
「『
「ふぐっ…。」
(魔力が残ってないフェンリルなら俺の攻撃を防ぐこともできない!効いている!)
ただ、魔力がないといえどフェンリルは強靭な肉体を持っているためそれでも致命傷にならない。
(魔力切れを起こしてでも致命傷を入れなければ…!)
そう思ったアベルは自身が作った魔法陣に集中する。
(鋭く体の中を抉るものにしろ!もっと鋭く!早く!殺すためだけに放て!)
「『
「…見事。」
フェンリルの首が飛び、今度こそフェンリルのトドメとなった。
〜〜
生まれ落ちたのはいつだろう。
神獣フェンリルを人間が討伐しようとする最中逃がされたことだけは覚えている。
しかしそれが原因で人間に復讐したくなったわけではない。
あちらから攻めてくるので仕方なく対応している。
あちらが人間で俺が神獣である限りこの関係は変わらない。
しかし、1人で過ごすにはあまりに長い期間が経っていた。
寂しい。誰か俺と話してくれないか。
俺は話し相手を探していた。
しかし俺はこの山から離れてはいけない。この山を守ることが俺の生まれてきた意味。
投げ出すわけにはいかない。
1人で過ごして何百年か経った頃、1人のエルフがやってきた。
彼女はレイラと名乗った。
数百年前に自分を育ててくれていた祖母が亡くなったらしい。
それで、しばらくして旅に出たのだと。
彼女は数百年間1人だったのかといえばそうでもない。
ここに辿り着くまでの道中でドワーフや自分の同族のエルフとも出会ったらしい。
どちらも歓迎され、村の一員にならないかと言われたが出会いを求めて旅をしているため断ったのだそう。
旅が終わりを迎えたらその時に行くかもしれないと言っていた。
レイラは10年ほど俺の山に残っていた。
その間にたくさんの旅の話をしてくれたがあまりに長居するので旅は大丈夫かと訪ねた。
すると、出会いを大事にしようとしているため別にいいと言っていた。
下手に短い期間その人と関わっても何も残らないと考えたそうだ。
しばらくしてレイラが旅立つと言い始めた。
10日後に人間の街を目指すと。
俺はいつまでもこんなところにいてもしょうがないのでいい案だと思った。
しかし、レイラがいなくなると俺は誰といたらいいんだろうと思い始めた。
俺はこのつまらない一生で中途半端に生きて終わるのだろうか。
俺はいつしか死を迎えたいと思っていた。
しかし神獣である俺は寿命による死があまりに遠い。
だから頼んだ。
俺の唯一の信頼できる友達であるレイラに「殺してくれ」と。
友にこのようなことを言うのは心苦しかった。
しかし、レイラは別に表情を変えることなく「気が向いたらね」と答えた。
その対応は苦しい表情をされるよりも楽ではあったが同時にレイラにとって俺はその程度の存在だったのだと傷ついた。
だから尚更俺は死を望んだ。
これでレイラもスッキリするだろう。
そう、思っていたのにーー。
〜〜
「…何、泣きそうな顔じでんだよ…レイラ。」
「…私はフェンリルを長寿友達だと思ってたんだけど…死んだら長寿でもっ…意味ないじゃん…っ。」
「ククッ悪かったなぁ。こんなことお願いしちまってよぉ。」
「もっと話してたかったよ…。」
「ああ、…というかお前ガイア殺してきたのかよ。」
「そんなこと今はどうでもいいでしょ?」
「そんなことって…。はぁ…。ハハッ、もうちょっと生きてもよかったかもなぁ。」
「…。」
「俺はお前のことダチだと思ってるからよ、お前とは仲良いままで終わりてぇんだ。」
「…。」
「だがら…ぐふっ…あんまり泣ぐなよ…。」
「…泣いてないよっ…馬鹿…っ。」
「…ふっ…お別れだ…。じゃあな…レイラ。」
フェンリルは静かに目を閉じた。
しかしその顔は幸せそうな顔をしていた。
レイラからしてもフェンリルという存在は大切な友達だったのだとわかったからなのか。
それはフェンリル自身が死んでしまったからには誰にもわからない。
死んだら、何もわからないのだ。
「…お前とフェンリルの関係は知らんが…埋葬なら手伝うぞ。」
「…ありがとう。」
それからアベルとレイラは何も話すことなくただ静かに土を掘る音だけが響いた。
アベルとレイラが埋めた場所には数十年後に美しい木が生えていたという。
そこの木は魔法の杖を作るのにぴったりな素材だったそう。
そして今でもレイラはこの木を使っているんだそう。
他にもっと優れた素材があったとしてもこの木だけはずっと…。
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フェンリルはずっとあの山で育ってきました。人間と同じ言葉を話せる理由はフェンリルに挑んできた昔の冒険者がフェンリルに理性があることに気がつき教えてくれたからです。
その冒険者は人間の街に帰ってもう二度と姿を現すことはありませんでした。
戦争に巻き込まれたからです。
フェンリルとレイラがまだちょうど出会ってない頃に人間同士の大きな戦争がありその時に大量の死者を出しました。
フェンリルは冒険者と会うことがなかったため忘れられたかと思っていましたが実際は会えないだけでした。
きっと2人は天国で再会してるでしょう。
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