……ある雨の日に出会った三月三日。
大創 淳
第一回 お題は「ひなまつり」
――三月三日。今年もまたこの日が訪れた。
あの子と会える。年に一度のお楽しみ。
あの子との出会いは雨の夜。冷たい雨の夜だった。まるで夜明け前の空が、最も暗くなる時のよう……この日で何日目を迎えたかなんて記憶にはないが、赤い傘に黄色の長靴を履いた女の子が、こちらに寄ってきた。
「君も一緒だね、僕と同じ一人ぼっちで……」
近頃の女の子は、自分のことを『僕』って言うのだろうか? 少し前までは違うような気がした。それは、この場所に来る前。明るい家庭の中にあった日々だった。
それがある日突然、暗くなった。
優しき日々は、音を立てて崩れ、あの家族はもう戻ってこない。ちょうど、この女の子と同じ年頃だったと思う。初めは、あの明るかった家庭の中の女の子が迎えに来たのかと思ったが、やっぱり違う子だった。髪はボブっていうのかな? 肩にかかりそうなくらいで……それに何? 怪我している? 頬がちょっと腫れている感じ? さっきまで泣いていたのかな? そんな表情をしていた。そして……その子は、連れて行った……
キーッと音を立てるドア。
そこには誰もいなかった。散らかったチラシ。それに衛生的にもよくなさそうな、ゴミ類の散乱。その中でも最も綺麗な場所を探して、案内してくれて、笑みを見せた。
「もう大丈夫だよ。ずっと君と一緒だよ」
目をキラキラさせて、その子は言った。涙のキラキラ? ではなく出会いを喜ぶキラキラと、そう感じさせてくれた。それが夢でも、芯から温まってきた。まるでマッチ売りの少女が最期に見た光景のよう。でも、その子は
「僕は
と、自己紹介に講じた。
……見た感じは、どう見ても女の子。スカートも履いている。十歳くらいかな? 前の家の女の子と同い年くらい。そしてまた、ここから始まる三月三日の小さなお話。
あれから何回目だろう?
三月三日を迎えたのは?
千佳との出会いは、妾を驚かせることばかりだった。どう見ても崩壊寸前の家の中だったが、彼女の周りには姉と呼ばれる存在と、それに御両親どころか、大家族にまで発展して……更に妾にも男雛や五人囃子までも囲んでくれ、温かな家庭を蘇らせていた。
……ある雨の日に出会った三月三日。 大創 淳 @jun-0824
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