三人の選択は三月三日から

日諸 畔(ひもろ ほとり)

始まりの日

 今日は三月三日。日本の風習で『ひなまつり』とされている日だ。そして、現代ではもうひとつの意味を持っていた。


「なぁ亜紀あき、お前はどうするん?」


 弁当を食べ終えた昼休みの残り時間、柔らかな日差しが当たる校庭のベンチ。小学生時代からの友人である芳人よしとが覗き込むようにこちらを見た。

 短く刈り込んだ髪が、日に焼けた肌に良く似合う。今は平均より低いが、これから背も伸びていくような気がしている。


「まだ決められないなって」

「じゃあ五月まで粘るのん?」

「んー、それもなー、なるべく早い方がいいとは思ってる」

「そっかー、悩む奴は大変だな」


 どうやら芳人はもう決めているようだった。人生を大きく変える選択だから慎重に、という考え方は、こいつには無縁みたいだ。


「相談なら乗るぜ?」


 芳人は一瞬だけ真剣な目付きになる。その視線にドキリとした直後、子供のように無邪気な笑みを浮かべる。


「そういうところだよ」

「あん?」

「なんでもない」


 悩ませている張本人は、無自覚なのだ。そりゃ、言っていないから仕方がないとは思う。言えるわけがないのだ。


「あー、こんなところに」


 芳人と二人で声のした方を見る。

 膝が見える程度まで短くしたスカート、左右に揺れるポニーテール。芳人と同じく、付き合いの長くなった友人、沙知さちだ。


「先生が亜紀のこと探してたよ。一次希望の提出、午前中だったでしょ?」

「あー、そだね」

「そだねじゃないよー」


 午前中が期限なのはわかっていた。あくまでも一次希望だし、五月まではいくらでも変更できることは知っている。でも、一回出してしまうと、それで決まるような気がしていた。


「あと亜紀だけみたいだよ」

「うーん、そうかぁ」


 なんとか誤魔化そうと後頭部に手を当てるけど、沙知の視線はこちらを真っ直ぐに見据えていた。


「こいつ、まだ決まってないらしいんだよ」

「えっ、そうなの?」


 芳人の助け舟に、沙知が驚いたように口元へ手を持っていく。


「じゃあ、とりあえず女の子にしようよ。そしたら一緒にひなまつりできるし」


 沙知にっこり笑い、さも名案かのように手を叩く。


「いや、男だろ」


 芳人が頬を膨らませ反論する。


 ジェンダー論と生物化学の行き着く先。今の時代、十四歳の若者たちは選択を迫られる。

 女になるか、それとも男になるか。


 三月三日から五月五日。

 女児の幸せな婚姻を願う日と、男児の立身出世を願う日。皮肉にもその間が、選択の最終期日になっていた。


「どうするの?」

「どうするんだよ?」


 二人の友人に迫られ、内心で叫ぶ。

 どっちも大好きなんだよ、と。

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三人の選択は三月三日から 日諸 畔(ひもろ ほとり) @horihoho

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