「心が動く」その理由を探す旅

 物語はどこにあるのか──そんな素朴でいて深い問いかけから始まるこのエッセイは、読書という行為を改めて見つめ直させてくれる、優しい思索の旅でした。

 「物語は記憶の中にある」という言葉が、繰り返し静かに響いてきます。読んだ文字が意味を持ち、感情を揺らし、記憶のなかで物語としてかたちづくられていく……そんな流れが、丁寧に、あたたかく語られていて、気づけば自分自身の読書体験と重ねていました。
 「現在は意識より少しだけ先にある」という一節には、はっとさせられるような不思議な納得感がありました。読むという行為の中に、時間と記憶と意識が複雑に絡み合っていることを、改めて感じさせてくれます。
 そして、川上君のエピソード。驚きつつも、どこか微笑ましく、木山先生の観察眼とユーモアが垣間見える場面でした。

 物語を言葉に託すことの難しさと、それでも書き続ける人の誠実な姿勢が、静かに胸に残ります。読後、なんだか少し、言葉が愛おしく思えてきました。

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