第2話 ソルマントルコス大爆発
「起きろ、起きろッ」
勇ましい怒号と平手打ちで猫は目が覚める。
「やっと起きたか!やりすぎて死んだかと…」
そこには、猫を気絶させた張本人が猫にまたがっていた。
猫は一瞬固まり、周りを見渡すと、自らがどんな状況かを把握し、手で顔を覆った。
「マジかよ……」
男の顔を見ると猫はさらにドンと暗くなった。
猫は一呼吸置くと、自身に跨っている男に、
手であしらう仕草をして、体
の上から退くように促した。
「あ、あぁ悪い」
男は素直に猫の要求に応じ立ち上がると、
近くにあった汚い腐乱死体を蹴飛ばして、
猫の寝ているベッドに、体に当たらない様
避けながらそこに座った。
「いきなり監禁なんてして申し訳ない」
男は猫に向かって頭を下げた。
それを見た猫はその行為がとても奇妙に思えた。
なぜなら、猫はこれからこの男に殺されるものだと思っていたので、少し親切な男の対応が不気味で仕方がなかった。
更に考えれば、捕まえたのに縛られていない事も不気味だ。
男の様子からも、今から猫を殺そうという気概は全く見受けられない。
「……俺をどうする気だ」
だが、敵意の無さそうな男に対し、
猫は警戒心マックスで男から目を離さないようにしている。
そんな様子に男はため息をついた。
「ハァ…そんなに警戒しないでくれ、
別にとって食おうなんて考えていな…」
「じゃあなんで俺を捕まえた!」
猫は男が喋っているのを遮って、
大きな声で男を威嚇した。
すると男は手で”落ち着いてくれ”とでも言うかの様にジェスチャーをした。
「一回落ち着け、俺は敵じゃない
『
〜
地王大陸を完全支配している教団『ブルースカート教』 を壊滅させ、地王大陸を取り戻すのが目的の
「反教団?こんな
猫はニュウリンに巡礼に来た教団の事を思い出した。
((近頃ここらで『反教団』が現れた。
そして愚民どもの中にその反教団が紛れているという噂だ))
「まさか本当に反教団がいるとはな……
なら、尚更俺をさらった理由が分からないんだが、俺はもう教団の人間じゃないから
教えれる情報も何も無いぞ」
そんなもの必要ないとばかりに
男は首を横に振った。
「俺たちは『
いや、
〜司蒼教〜
地王大陸の八つの教区をそれぞれ支配している教団の幹部的立ち位置の教徒。
「そのせいで、今仲間は俺を含めて
政府軍からも壊滅扱いされていて、
支援も受けられない。
だから少しでも今は仲間を増やしたいんだ。
それで、教区外に元教団の奴がいるって噂を聞いて遠路はるばるこんな所まで来たんだ」
男は長々と話終えると、
猫からの返答を待った。
「つまり、俺に仲間になれと?」
男は頷き、猫に頭を下げた。
「頼む!俺たちに力を貸してくれ!
今は誰でもいいから人手がいるんだ、
元教団なら一般市民よりは強いんだろ。
頼む!」
猫は男の圧に驚いたが、また冷静に答えた。
「断る。団員三人の反教団なんて入りたくないし、まずもってお前が信用できない」
猫の家があったB地区のニュウリンは、
反教団が来たせいで大巡礼が起こり、
壊滅してしまった。
穏やかな生活を奪ったのは、
間接的に反教団のせいともいえる。
男は下げた頭を上げると同時に、
ため息をついた。
「…だろうな、どうせ駄目だとは思ってた。
でも、引き受けずに困るのはお前だろ」
猫は図星をつかれた。
「現実的に考えて今から元教団の”前科者”を住民として受け入れてくれる所なんてない。
衣食住は一応そろってるし、
団員だってこれからまた集める、
あんたにだって悪い話じゃないだろ?」
男の言うとおりだった。
猫の今の状況にとって男の話は断る必要性を感じない申し出だ。
だが、いきなり拉致されて、
仲間になれと言われても、
イエスと言いずらいのも仕方なかった。
「だが…」
男の言う通り、
今の猫には住む家も地位もない、
だが猫にはすぐに承諾出来ない理由があった。
「…確かに反教団はこの教団の作りあげた社会から抜けるという事でもある。
即決出来ないのも当たり前だ…
だが、衣食住もあって、
手柄をあげれば政府軍から、
それなりの報酬だってある…
すぐに決めなくてもいいが、
出来れば今日中に決断してくれ」
男が部屋から出ていこうとした瞬間、
猫は男の服の裾を掴んだ。
「待て………世話になってやる」
猫は不服そうにその申し出を受け入れた。
(
猫は男に承諾したが、
内心ではまだ決断が出来てはいなかった。
もしもの事があれば、裏切ろうくらいの気持ちで男の提案に賛成した。
「だが勘違いするなよ、
まだ信用はできてな…」
男は猫の言葉を遮り、その言葉を待っていたといわんばかりに猫へ握手した。
「よく言ってくれた!
これからよろしく頼む!」
男は本当にうれしそうに
猫に何度も頭を下げている。
「おっと、嬉しさのあまりはしゃぎすぎたな、でも、本当にありがとう」
再度シナモンは猫に頭を下げた。
「自己紹介がまだだったな、
俺は『シナモン』
この反教団『白零姦連合』の団長だ」
「お、おう、よろしくシナモン、俺は…」
猫も自己紹介し返そうとしたが、
まだ信用しきれないシナモンに自身の名前を伝えるのは少し抵抗があった。
そんな猫の様子にシナモンは戸惑いを見せる
「…どうした?」
「いや…とりあえず俺のことは
そのまま見た通り『猫』と呼んでくれ」
シナモンは猫の様子に疑問を持ったが、
追及はしない。
「分かった、これから頼む…猫」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
猫とシナモンは反教団の基地内部を歩いて周っていた。
「聞きたいことは山ほどあるだろうが、
今はとりあえず、
団員にお前のことを紹介しないとな」
猫はそれが一番不安だった。
元教団という肩書きは地王にいるほとんどの民が顔を歪ませる程、
不名誉な称号だからだ。
「大丈夫か?
元教団を良く思うやつは少ないと思うが」
シナモンは不安そうな猫に笑いかけた。
「ハハハッ安心しろ、
うちの団員にも、一応お前と似た境遇の奴もいる。
それに元教団だろうが、なんだろうが、
皆を受け入れるのが、
この反教団のモットーだ」
それを聞き猫は少しだけ安堵した
「そうなのか…
じゃあ、その似た境遇って奴も元教団か?」
シナモンも猫に問に早めに首を振った。
「違う…『
〜蒼礼者〜
ブルースカート教を信仰する現地王の人間の総称。
猫の顔が引きつる
「俺を招き入れたことも異常だが、
蒼礼者まで仲間にするなんて
…完全な変態だなお前」
「言ってくれるじゃないか…
だが、全ての者受け入れるってもの、
今の世の中じゃ変態かもな」
そう言うシナモンは、
猫から目をそらしていた。
「ハァ…ていうか5分くらい歩いてる気がするんだけど」
猫の息はいつの間にかアガっていた。
(ずっとまともに運動してなかったから
ブランクが酷いな)
猫は心の中で悲しくなった。
「もうバテたのか?
俺と戦った時とは大違いだな、
元教団が聞いてあきれる。
まぁ使われてない
広すぎるのは俺も同感だ」
シナモンが”十一歩”くらい先の扉を指さす。
「あそこだ、あそこに団員達がいる」
シナモンが扉をノックし扉を開いた。
〜作戦室〜
そこには二つのソファと散乱した銃、
薄汚れたカーペットには、
何故か壊れた冷蔵庫と大量の火薬があった。
「戻ったぞ」
シナモンが部屋にいる人影に声をかける
「遅かったな…
そいつがシナモンの言ってた元教団者か?」
灰色のターバンを巻き、
長い口髭を伸ばした男は猫に目線をやる。
男はシナモンに質問はしたが回答がわかりきっているのか立ち上がり、
猫の元へと近ずいた。
「俺は『ジャック・トマソン』
ジャックと呼んでくれ、
お前の経歴はシナモンから聞いている、
俺も似たようなもんだから気兼ねなく仲良くやろう」
イカつい見た目とは裏腹に、
ジャックは手を伸ばして握手を求めてきた。
「へッ?あ、あぁあんたが元蒼礼者の…」
身構えていた猫だったが、ジャックの親切な対応にそんな気はなくなり、
差し出された手に猫も手を重ねた。
「聞いてたか、そうだ俺は元蒼礼者さ…でももう信仰心とかはないから安心してくれ」
ジャックはいかつい見た目のわりに、
優しい人間だった。
猫とジャックが話している間、
シナモンは辺りをキョロキョロと何かを探すように見ている。
「おい『パンプ』はどうした」
シナモンは、おそらくもう一人の団員についてジャックに尋ねた。
「さぁ?またどっかで
呆れるようにジャックは言い捨てた。
「そうか…集めるのはいいがここに散らかしてくのはやめてほしいな」
シナモンは冷蔵庫たちを見ると、
ため息をついた。
恐らくあれはパンプと呼ばれる団員がやったのだと猫は悟った。
「まぁあいつを待っている必要はない、
とりあえず俺たちだけで『団員の儀』をしよう」
「な、なんだ団員の義って」
腕でもちぎれるのかとビビっている猫の肩に、ジャックは手を置く。
「そんなビビらなくてもいい、
別に焼き印とかしようってわけじゃない」
シナモンはどこからともなく真っ白な
「これは団員の印だ、
改めてこれからよろしく頼む」
猫はその鎧に見覚えがあった。
「この鎧って、
『
地王大陸では、過去、ブルースカートと、
他地方の国でたびたび戦争がおきており、
『地王戦争』は教団との戦争の総称で、
猫につけられたのは、『第二次地王戦争』の政府軍の鎧だった。
「反教団は政府軍の管轄で動いている。
いくら民間とは言え、これは必要なんだ。」
猫とシナモンは二度目の握手をした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
すると突然、
走って来る様な足音が、
バタバタと聞こえ始めた。
「あ、帰ってきたっぽいな」
扉が荒々しく開き、
カボチャを
「悪い!遅くなった!」
カボチャ頭はなぜか大量の鉄の塊を風呂敷に包んで背負っている。
そいつは猫を見ると真っ先に近寄ってきた。
「アンタがシナモンの言ってた元教団か?…思ってたよりひょろいな!」
初対面でいきなり罵られ、
猫は驚きとショックが心に響いた。
「い、いきなりキツイ事いうな…」
猫は偏った食生活から、
現役よりだいぶ不健康だとは思っていたが、
初対面のしかも子供に直接言われ少し傷ついた。
「まーたそんなにゴミ拾ってきて…
別にいいけどここに散らかすなよー」
ジャックはカボチャ頭の背中を見てため息をつく。
すると、カボチャ頭は反抗期の子供のようにジャックへ言い返した。
「いいじゃん別に!
それにゴミじゃないし!立派な資源だし!」
二人が言い合いを初めそうになった瞬間、
シナモンが大きく手を”パンッパンッ”と
叩いた。
「茶番は後にしてくれ、今は新しく入ってくれた猫を良く知ってもらう必要がある、
勿論俺たちのことも」
カボチャ頭は不服そうに”はーい”といい鉄の塊を通路に投げ捨て、ソファに座った。
「よしっこれで全員揃ったな…改めて、俺は反教団団長の『シナモン』だ。
たまに前線に行くが、
基本的には戦略や反教活動の計画をしている
猫にはこれからバンバン前線に行ってもらうから覚悟しとけよ!」
そう言うシナモンに猫は苦笑いで答えた。
(前線って…聞いてないんだけど。
…まぁいっか)
次にジャックが立ち上がった。
「次は俺だな、
さっきも言ったが元蒼礼者のジャックだ。
俺は前線の他に、
「助手?このカボチャ頭の?」
見るからに頭が悪そうなこのカボチャを見て、猫は“何言ってんだ“と、
真面目に思った。
するとカボチャ頭は勢いよく立ち上がり
ジャックの目の前に立った。
「そうだ俺の助手だ!
俺は
んで、その手伝い(雑用)がジャックだ」
「ちょッ俺の終わってなかったのに」
猫はジャックの助手のくだりより気になることがあった。
「帝国亡命者?
まさかあの『カボチャ帝国』からか?」
「知ってるのか!そうさ俺はあの
猫はさっきまで生意気なクソガキと思っていたが、カボチャ帝国と聞き、猫は何とも言えない気持ちとなった。
〜カボチャ帝国〜
ブルースカート教に吸収される前から酷い資本主義で、国民のほとんどが奴隷以下の扱いを受けている。
さらに国が総出で”人身売買””薬物””身売り””臓器売買”を推奨していて、今のブルースカートよりも、酷かったとされている。
パンプの歳はぱっと見で十一才そこらだ、
だからブルースカートが加わった丁度その年に生まれたというわけであり、
同時に最低の世代だったともいえる。
「帝国から亡命か…
子供が身一つでよく生きてたな」
猫はパンプの頭をガサガサと撫でた。
「うわっやめろよ」
パンプはいきなり撫でられてびっくりしたようだが、少し嬉しそうだった。
「おお、仲良くやってるな、いい事だ。
ちょっと話があるから、
こっちに来てくれないか」
シナモンが
地図にはたくさんの印が書き込まれたり、
貼ってあったりしていた。
「一通り自己紹介も終わったことだし、
猫には今の地王の状況を、
知ってもらう必要がある」
(教えられなくても大体分かるけどな)
と猫は内心思った。
「俺たちのいる『
司蒼教がいるのはわかるよな?」
シナモンに問われ、猫は頷いた。
「今の俺たちは政府軍からも見捨てられているわけだが、また大きな手柄をあげれば注目される。
だから俺たちの今の目標は、
司蒼教を一人でも殺し、教区を
そう淡々と言うシナモンに、
猫は少し不信感を覚えた。
「んな作業みたいに…司蒼教一人って、
今までの反教団で、誰もなせてないことをできるのか?」
シナモンは”大丈夫だ”と言わんばかりに、
猫に親指を立てた。
「計画がある、
俺も長く反教団をやってきているが、
今この地王はとても不安定なんだ。
言い換えれば、
教団を潰すチャンスでもある」
シナモンはそういうが、
猫はやはり信じられなかった。
何故なら、司蒼教と戦ったから、
ほぼ壊滅状態にさせられたと自分で語っていたからだ。
「そう言って、壊滅させられた団長に言われても説得力がないな」
「…………」
シナモンは何か言い分があると言いたげだったが、何も言わず、
言い返そうとしなかった。
「とにかく、
これからのことを話すから聞いてくれ。
まぁ、お前らに言われた通り、
ここは壊滅してる…
だから
今は戦力を上げたい」
シナモンは大きな地図にある、
赤い印を指さした。
「ここは『キャンプ・タワー』と言って、
教団への反逆者とか、教団の決まりとか破った奴とかが収監されている教会監獄だ。
ここに入れば、教団から与えられた
出られても教区内に入ることが出来ない。
だから反教団に勧誘するなら、
この塔の囚人が最適だ」
猫たちが地図を眺めると、
その地図には沢山印がついているが、
そのキャンプ・タワーには、
大きく二十に丸がついている。
今の一番の最優先事項ということだろう
「頼まれてくれるな?」
猫はシナモンへの不信感からすぐに答えが出なかったが、頭の片隅にシナモンが何か言いたげで、何も言わなかったことを思い出し、
少しだけ心が肯定的になった。
「俺は……」
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