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「姉ちゃんは、さみしかったんでしょ? 俺も、さみしかった。それで、言っちゃえば傷の舐め合いしてたんだよね。それでも俺はよかった。ずっとこのままがよかった。だけど……。」
真央が曖昧に言葉を切る。貴子はなにが真央をここまで思いつめているのか分からず、困惑する。上手く話しを聞き出したい、と思うけれど、そうするには真央は賢すぎる。彼は多分、言わない、と決めているのだ。言ったほうが真央自身は楽になるのだとしても、おそらくは貴子のために、言わない、と。
そこまで考えると、貴子の中にわいてくるのはやっぱり、真央への愛おしさだった。賢くてやさしい真央。彼はもしかしたら、貴子より大人かもしれない。
「……確かに、さみしかったかもしれない。」
貴子は、真央の向かいに膝を折って座り込みながら、正直な言葉を紡いだ。
「でもね、誰でもよかったわけではないよ。……うーん。……はじめは真央のことよく知らなかったけどね。隣に立ってる、明るい男の子くらいのことしか。……でも、こうやって一緒に暮らして、真央のことちょっとずつ知って、今はやっぱり、真央がいい。真央がここを出ていくって決めたなら止められないけど、その選択はもっと前向きであってほしいかな。」
「前向きって……。」
そんなことありえないよ。男娼だもん。
真央はそう言って、半分泣きながら笑った。
男娼は、もうやめたほうがいい。貴子はもちろんまだそう思っていたけれど、今はそれを口に出せなかった。あのとき真央が、裏切られた気分になる、と言っていたことを忘れたわけではない。この綱わたりみたいな会話の最中に、そんな無神経なことを言っては、あっさり綱から落下してしまうことは分かっていた。
「ありえなくないと思うんだよね。」
貴子は慎重に、そしてその神経の使い方が表に出ないように、言葉を選ぶ。
「私にもまだ分からないけど、例えば新しい恋をしたりするかもしれないじゃない? 真央はまだまだ若いんだから。」
新しい恋。そう言った瞬間、真央の目が変わった気がした。うっすら涙をたたえていた素直な両目が、一気に曇る。なにか地雷を踏んだか、と、貴子は焦った。まだ以前の恋人に未練があるのか、それとも本当に新しい恋を見つけ、それが上手くいっていないのか。
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