第5話:ディール劇場

 オフホワイトハウスでの怒成度・徒乱富ドナルド・トランプ大統領による魚路出位美瑠・是恋好ウォロディミル・ゼレンスキー大統領の出迎えの最初の1秒目から不穏な空気があった。


 「是恋好ゼレンスキー大統領、ようこそ、オフホワイトハウスへ。おい、マスコミ諸君、今日の歴史的和平提案の場に彼はとってもお洒落な恰好でやってきたぞ!思わず見た瞬間『』と言いたくなってしまう深い緑色のでだ。しかも服に芥まで付けてな!」


 「徒乱富トランプ大統領、これはのっけからご挨拶ですな。私はご存知のとおり、いつもこの恰好ですよ。しかも、ほら、あなたの服にも芥が付いている。」


 口元に笑みを浮かべた徒乱富トランプ大統領が是恋好ゼレンスキー大統領を招じ入れるが、テレビは徒乱富トランプ大統領の目だけは笑っていない姿をしっかりと世界に伝えていた。


 会談に先立ち、大統領執務室前のテレビスチールカメラ用の応接セットでのマスコミ公開の形で、ごく形式的な雑談が交わされる会見が始まるはずだった。。。テレビカメラの前で公開された会見時間は50分であったが、最初は穏やかな会話に終始していた二人であったが、40分を過ぎた辺りから険悪な雰囲気が漂い始め、暗雲が一気に立ち込めてくることとなった。是恋好ゼレンスキー大統領が、10年程前に栗宮クリミヤ半島を愚史阿オロシアに違法に併合され、1期目の徒乱富トランプ氏を含め歴代政権が止められなかった経緯に触れると同席していた副大統領が噛み付き、「自国メディアの前でこの主張をするために大統領執務室に来るのは非礼だ!まず、徒乱富トランプ大統領に感謝すべきだ!」と口火を切った。徒乱富トランプ大統領も指を是恋好ゼレンスキー大統領に突きつけながら、「あなたはカード遊びをしている。多くの人の命をかけて第三次世界大戦の賭けをしている」と畳みかける。「大声を出して威圧しかできないのか?今度のオフホワイトハウスの面々は!」と是恋好ゼレンスキー大統領も相手を能なしとカウンターパンチを浴びせる。これで、もはや収拾はつかなくなり、報道官はメディア公開会見の終了を宣言。徒乱富トランプ大統領と是恋好ゼレンスキー大統領がまだテレビカメラの回っている前でそれぞれ相手の胸倉を掴み捩じり上げる前代未聞の両首脳による取っ掴み合いとなった。和平案提案に先立つ公開記者会見であったが、殺気立つその光景に世界の浮足立った。


 屈強な国務長官が、二人をテレビカメラの前から遠ざけるべく、大統領執務室に二人と関係者を押し込むように追いやる。その間にも、テレビカメラが二人のただならぬやりとりを捉え続ける。マスコミも政府関係者に押さえつけられ、部屋から排除されようとしているが、この絵を取れなかったら解雇クビだとの発破をイヤホンから掛けられているテレビクルーたちも必死に食い下がりカメラを回し続ける。


 「テメェ、中精子爆弾をウチがオタクの国にぶち込んでもいいんだぞ!俺はな、あんなグズグズ3年もチンプンカンプンな戦争ごっこやる珍憤チンプンの野郎とは違うぞ!」

 「やれるもんならやってみろ!そしたらな、世界の終わりだ。この惑星での『不文律:中精子爆弾の使用は禁止禁欲』はあんたも分かっているはずだ!!」

 「お前の国に情報収集機関はあんのかよ、是恋好ゼレンスキー!俺に、そんな不文律なんてものが通用すると思うか!?あん?おい、国務長官、戦略核 中精子爆弾ミサイルの発射ボタンを持ってこい!これは大統領令だ!!!」国務長官が発射ボタンを取りに走る。


 これ以上、この醜態を晒すのはマズイとみたスタッフ一同が神輿でも担ぐかのように二人を押し包み、大統領執務室へと完全に押し込み、扉を閉める。フリーのジャーナリストとして会見場に来ていた私も、どさくさに紛れて、大統領執務室の中に滑り込む。誰も気付かない。


 主席報道官が大統領執務室で血相を変えて、二人に耳打ちする。


 「愚史阿オロシア連邦 珍憤チンプン大統領から緊急のテレビ会談の要請です!画面繋ぎます!」


 胸倉を掴み合いながら徒乱富トランプが叫ぶ「珍憤チンプン、なんだ!?ご覧のとおり、現在、取り込み中だ!」

 「おい、徒乱富トランプ!お前、本当にやる気か!?」

 「当たり前だ!俺はやると言ったらやる!目気思子メキシコとの間の壁も本当に作っただろ。アレと何ら変わりわない。おい!国務長官、ミサイルの向きを愚史阿オロシア連邦から怒煮婦瑠ドニエプル共和国へ変えろ!」

 

 モニター画面にわずかに左に15度ほど、そして仰角がわずかに上がるように砲口の角度が調節される。間違いなく怒煮婦瑠ドニエプル共和国に向けて目標設定がされたことが判る。それは画面共有されていた珍憤チンプンにも見えている。画面には、燃料を充填された半透明ロケットが見えている。U.S.A.United States of Amerigo Bomb in Sperma中精子爆弾と書かれた文字と白濁した液体が満載されたロケットがデカデカと映し出されている。


 「いいか、国務長官、俺がPushと言ったら押せ。本当は俺が押してやりたいところだがな、生憎、俺の両手はこの馬鹿野郎の胸倉を捩じり上げているので塞がっているもんでな。いいか、これは大統領命令だ。躊躇なくやれ!」

 突然、国務長官の右手が緊張で大きく震えだす。しかし、国土防衛の責任感から、国務長官は胸元から扇子を引き出すや、一閃扇子を引き裂き竹串を数本引き出すや、震える右手に数本竹串を突き刺し、震えを止める。発射準備が整った。


 緊迫した瞬間だったが、微かな既視感に囚われ、私は眩暈を瞬間覚える。


 胸倉を掴みあった両者だったが、頭を押し付け合い、目と目がくっつきそうなくらい鬼の形相で悪態をつき続け、こんな侮辱を受けたことのない徒乱富トランプは顔を真っ赤にして、今にもPush!と叫びそうである。


 珍憤チンプンが震える声で絞り出す

「おい、二人とも愚かな争いごとはやめろ!」


 徒乱富トランプ是恋好ゼレンスキーともに、(お前の口が言うか!)とビックリ!少し互いの腕から力が抜ける。


 両者の頭と頭が何度もぶつかっていた、その反動で両者がそれぞれの後方にもんどりうってのけぞり、椅子にそれぞれ打ち付けられるように座る。


 是恋好ゼレンスキーがすかさず叫ぶ!

 「おい、今こそ、作戦奇絵婦キエフの発動だ!」

すると怒煮婦瑠ドニエプル共和国の随行員二人が一歩前に進み出たかと思うと、首から下げたネームプレートにKnight is philosophy.と書かれた男が、もう一人の容姿端麗な女性の服を剥ぎ取り始めた。女性のネームプレートにはEst Villaggio Saeeと書かれている。珍しく英語とイタリア語と思われる名前だ。


 日本語だけの世界で過ごしていたせいか、私はなぜか不思議なことに脳内で日本語名に変換し始めていた。

 えっと、Knight is philosophy.。。。えっまさか「内藤 哲也?」眩暈がする。そして、Est Villaggio Saee。。。えっと、ワインでEST EST ESTってあったから、たしか「ある!ある!ある!」かVillaggioは村だから。。。えっまさか「有村冴?」


 そう思って眺めていると、女性が叫び始めた「イヤッ、ヤメテー!」男性が逆にその言葉を聞いて嗜虐性を強めながらどんどん衣服を剥ぎ取りながら吠える「なりふり構ってられないんだ。オラオラ!こうしてくれる!」


 更なる既視感で倒れそうになると、呼応するかのように是恋好ゼレンスキーが突然ズボンのジッパーを下げ叫ぶ!「中精子爆弾が、飴利後アメリゴ愚史阿オロシアの専売特許と思うなよー!こっちも発射準備第一段階完了だぁ。喰らえー!直射砲なら怒煮婦瑠ドニエプルにもんだー!」是恋好ゼレンスキーが高速でなにやら腕を動かし始める。


 「であえー!そんなちょこざい、ワシ自らが返り討ちにしてくれるわー!と顔を真っ赤にした徒乱富トランプが叫ぶ!すると飴利後アメリゴ陣営のスタッフの中から眉目秀麗な女性がすっくと立ちあがり、珍しく英語で捲くし立てる。

 “Mr. President, look at me, please!" 

 そう言うと、これまた何とも美しい女性がイエローのジャケットを脱ぎ捨てるとオレンジ色のブラウスのボタンを自ら開け始める。ブラは付けていないようだ。透き通るような白い胸元が見え始めるが、見えそうで見えない究極のチラリズムショーが展開される。脱ぎ捨てたジャケットのネームプレートを見ると、Old February Milletと書かれている。もはや、すぐに変換できた「如月旧暦2月美麗」だろう。なぜ、ここにいる?頭が完全に混乱してきた。流行語大賞のような言葉が脳内に浮かぶ:「パラレルワールドにも程がある!」と。


 徒乱富トランプも思わず英語で感嘆の声を発する。"Oh, Make my Atomic weapon Great Again! This is MAGA, exactly."

 さらにMilletの口元から顎、胸元にかけてヨダレが垂れ、床に崩れるようにゆっくりと艶かしく横になり、見えるか見えないか絶妙な感じにスカートが捲れると、徒乱富トランプが興奮のあまり咆哮の声を上げる。"That is p, pus◯y, isn't it?"


 よく聞き取れなかった国務長官が確認の声を上げる。

 "Say it again, please! Did you say 'Push'? Is it right?"


 二人の大統領は絶頂、いや、直射砲発射とそれを迎え撃つPatriot配備に夢中だった。先制攻撃を仕掛けた怒煮婦瑠ドニエプル側が有利のように思えたが、Milletが強壮ドリンクTonic徒乱富トランプに放って寄越す。


 "What kind of tonic drink is it?" 

 "It's F.D.A unofficial ultra super tonic, 'Magnum 44'!(アメリゴ保険局非公認のウルトラスーパー強壮剤「マグナム44」よ!)"

 さすがF.D.A非公認強壮剤、パワーが違う。恐らくMilitary用に開発された戦場でのアドレナリンをMAX値以上に一気に引き上げる興奮剤だ。成分の殆どはコカイン、いや、麻薬に近いのではないか!?急速に絶頂感が高まってきた。

 

 「うぉー!!」二人の興奮が最高潮に達し、雄叫びを上げ合う!


 その時、オフホワイトハウス執務室に愚史阿オロシア連邦 珍憤チンプン大統領の大声が響き渡る。

「オイッ!二人ともバカな真似はよせ!わ、分かった、戦争は止めだ。徒乱富トランプ、お前に、中精子爆弾を本当にぶっ放されたら、かなわん。そしたら、愚史阿オロシアは、何も得るものがなくなっちまう。。。」


 「あん!?それは本当か?どうせ愚史阿オロシア十八番おはこ。口約束&平気の平左の後で破棄パターンだろ?」

 「栗宮クリミヤ半島にはどうせ居座り続けんだろ?」

 徒乱富トランプ是恋好ゼレンスキーが矢継ぎ早に疑心暗鬼の眼差しで珍憤チンプンに疑問を浴びせかける。一旦、自分たちの中精子爆弾はズボンの中にしまい、珍憤チンプンの話に耳を傾ける。

 「いや、核戦争半歩手前までお前ら行ったんだぞ!分かってんのか?」

 「俺たちはあと0.5秒でだったのにな。」

 「そんなヤツらとは今後、暫く付き合いを御免こうむりたい!あとで、調印文書を電子署名付きでお前ら二人と国際機関に送っておく。それで確認してくれ。栗宮クリミヤ半島からも48時間以内に撤退を開始する。衛星画像等で確認してくれ。じゃあ、もう切るぞ。お前らの顔なぞ、暫く見とうないわ!」ブチッという音とともに回線が切れた。私の眩暈も限界で、ここで意識が途絶えた。。。



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 実は、喜劇役者出身である是恋好ゼレンスキーと道楽息子徒乱富トランプは、一時期、とある国の良元興業というところに揃って所属し、お笑いコンビを組んでいた仲だった。今回の殴り合いに発展しそうだった「決裂劇」は二人の持ちネタだった。合図はお互いの服につく「芥」を取る仕草。片方が取り、もう一方も相手の服につく「芥」を取れば、このネタ開始のゴングの合図だった。思えば、オフホワイトハウスに着いた際、着くなり徒乱富トランプ是恋好ゼレンスキーの服についた芥を取り、Youの服にも芥が付いてるぞ、とやり返していた。そこから持ちネタのゴングが二人の間では鳴っていたのだ。


 40年振りのコンビ結成で事前打ち合わせする間もなかったが、二人のコンビ最初の練習に練習を重ねたネタだっただけに、打ち合わせがなくともすぐにお互いの調子を合わせられた。


 二人だけになった今、二人は40年振りにファーストネームで呼び合う。

 「魚路出位美瑠ウォロディミル、それにしても、よく分かってくれたな。40年振りだから、気付いてくれないかと思ったよ。」 

 「怒成度ドナルド、何言ってんだ。すぐに分かったよ。芥に芥でActors。俺たちのコンビ名だろ。持ちネタの少なかった頃の俺たちが劇場で滑った時は、唯一鉄板でウケる「決闘劇 & 最終核兵器戦争」で危機を回避する、っていうのが暗黙の了解事項だったからな。それにお前の目を見て、Actors:俺たち役者になり切るしか、この難局は乗り切れねぇぜ!って言ってるお前の心の声が聞こえたよ。」

 「ハハハ、そうか。それなら、良かった。それにしても、お前のところのスタッフも優秀だったな。どこで見つけたんだ。自飯愚ジパングか?」

 「そうさ、二人とも将棋界出身でな。女性の方はさらに名人経験者さ。二人とも読みと難局を乗り切る力が並みじゃない。お前の美人スタッフもなかなかじゃないか?」

 「こっちも将棋の棋聖経験者かつ量子力学のスペシャリストでな。機転が利くし、狙った獲物は手段を尽くして必ず仕留めるんだ。今回の成功報酬で約束どおり来月から彼女は、主席報道官さ。」

 「お前が間に合わないかと思ったが、あのスペシャル強壮剤が迫真さを増して、あれで珍憤チンプンを騙しおおせたわ。」

 「おぉ、そうだ、あの強壮剤、良かったら持っていけ。効くぞ!あの強壮剤、実はな、梅電バイデンは今でも毎日飲んでるぞ。ここだけの国家機密だがな。ガハハハ!まぁ、それが政治ってもんだろ!?」

 「ありがとう、遠慮なくもらっていくよ。ところで怒成度ドナルド、お前さっき、『俺たちはあと0.5秒で核兵器発射だった』って言ってたが、あれホントか?」

 「いや、珍憤チンプンから戦争終結&完全撤退宣言を聞いたと同時にズボンの中で俺の核弾頭が暴発したよ。」

 「実はオレもだ」

 「お主もつくづく芥/役者アクターよのう。」

 「お主もな!」

二人合わせてガハハと笑い、滋養強壮剤をカチリと合わせて乾杯。



 その後、怒煮婦瑠ドニエプル共和国は、飴利後アメリゴ合衆国に、栗宮クリミヤ半島での希少金属レアメタルの採掘権を千年に亘って承認。結果、NATTOに属することなく、飴利後アメリゴ合衆国軍が常駐にほぼ等しくなり、愚史阿オロシア連邦の以後、黒海方面への進出は事実上不可能となった。


 一方、栗宮クリミヤ半島には飴利後アメリゴの文化と経済、自由と秩序がもたらされた結果、一気にエリア一帯の復興が進み、かつては火薬庫と呼ばれていた地域が平和的友好エリアへと変貌と発展を続けていった。

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