二十五本目 到着

 ソイツを視認した時の印象は、『蛇皮の男』。


 全身が蛇の皮で作られたタイツのような見た目。そして、先ほどまで人外だった外見は、完全な人型になっている。


 身長は――二メートルを優に超えている。


『――――』


 その顔は、タイツのような皮が張り付いていて、一見すると顔のない能面のようだった。


 だが、目や口の影のようなものがあり……『蛇皮の男』は、俺の肩口に突き刺さった槍を見て――を浮かべていた。


「ふざ……けんな……」


 自分から噴き出す鮮血に頬を汚しながら、テラスの中から出てきた怪物へ言葉を吐きだす。


……は……反則だろっ……」


 歯を食いしばり——槍を引き抜いて捨てる。


「っ……」


「先輩ッ……!」


「いい。構えろキイラ……」


 槍を喰らい、力の入らない左腕。大量出血で明滅する視界。――先ほどの戦いで追ったケガもある。


 満身創痍だ。


 だが、それでも剣は構える。――死にたくないからな。



 しかし、



『————』


 刹那――いつの間にか槍を拾い上げた蛇皮の男が接近していた。


「ッ————!!」


 一撃目は寸前で防いだ。――――しかし、迫る高速の二撃目は、視認することすら叶わなかった。


「……ガハッ」


 槍の穂先が左の脇腹を穿っていた。


「こ……の……!!」


 それでも、俺は懸命に剣を振り上げて、


『——』


 そんな俺を、蛇皮の男は無造作に殴りつけた。


「――――!!」


 きっと加減されていたのだろう。――拳が右の頬を強烈に打ち、ゴロゴロと地面に転がる。


「お前ッ……!!」


 キイラは、魔法の発動するには接近されすぎたと判断したのか、短剣を引き抜き――近接戦を試みる。


「やめろ……キイラッ……」


 視線だけで、キイラの動向を確認した俺は、必死に声を出すが……キイラは止まることはない。


『————』


「がっ——!?」


 蛇皮の男は、振りぬかれたキイラの短剣を裏拳で弾くと、使に——キイラの細い首を無造作につかみ上げる。


「~~っ、~~っ、っっっ!!」


 キイラの身体を持ち上げるほどの腕力——握力で気道を締め上げられ、キイラは必死に暴れ回る。


—――コイツ……俺達で…………!!


 俺の槍をぶっ刺した時も、ぶん殴ったときも、今も……


 コイツは、いくらでも俺達を


 けどコイツはわざと急所を外し、痛めつけて……苦しませるために俺達を殺さなかった。


「クソ野郎……!!」


 キイラを助けるために、必死に力を入れるが……腕は上がらず、足はピクリとも動かない。


—――クソっ……キイラが……仲間が死んじまうって時に……ッ!!


 灼熱の大地に額を叩きつけ——首の力だけで身体を起こそうとするが、今や身体強化すら解けてしまった身体ではどうにもできない。


「やめろ……! やめろ……ッ!!」


 そして、



 『ゴキッ』という鈍い音が鳴り響き――



「――」


 俺は見た。


 伸びてきたが、蛇皮の男を殴りつけたのを。


「……なんだか最近ツイてないねアルティ」


「おま……え……」


 樹木――樹術じゅじゅつの魔法を放った乱入者・ヘリオスは、吹っ飛ぶ蛇皮の男と入れ替わるようにキイラを受け止める。


「けどまぁ……ギリギリ間に合ってよかった」


 ヘリオスは、そっとキイラを下すと、今しがた飛ばした方へ視線を送る。


「たす……かった……の、か……?」


「チッ……よりによって巻き込まれたのがお前か……」


 ホッとしたのも束の間、今度は盛大な舌打ちと共にセレストが俺の前に現れる。


「セレスト……」


「気安く呼ぶな、黙ってろ」


 こんな死地にあっても、乱暴な態度に変わりない彼女に、俺が少しだけ傷ついてると……


「……」


 セレストは俺とキイラの前にしゃがみ、じっと俺達を見つめる。


「……何を?」


「うるせぇ、黙ってないと氷漬けにするぞ」


「ハイ、スイマセン!」


 キイラを見て……やがて俺に視線を移して、セレストは俺にそっと手をかざす。


「出てこい——『製武氷作アエレス』」


 次の瞬間、俺の肩口と脇腹のケガに氷の魔法が掛けられ——あっという間に出血を抑えるように氷が覆ってしまった。


「……」


 セレストはその魔法で、ついでに作った氷の細長い棒を使いキイラの骨折箇所に布と共に、その棒を固定した。


「セレスト……お前……」


「……感謝はするな。鬱陶しいだけだ」


「……難しい話だ」


 悪意にまみれていたと思っていた彼女の良心に触れ、俺は笑みを浮かべながら後頭部を大地に落とした。



「セレスト、応急処置は?」


「――出来てる」


「オーケー、じゃあ急がないとね」


 セレストは——背中から、折りたたまれた金属のを取り出し構えた。


 ヘリオスは前髪をかき上げ、普段は隠れている切れ長の瞳をまっすぐ前に向けて――背中に吊っていたを肩に担いだ。


『――!!』


 刹那、吹っ飛ばされていた蛇皮の男――テラスが、自身を押しつぶしていた瓦礫を吹き飛ばして、土煙の中から現れる。


「チッ……主部屋テラスルームがないだけでも面倒なのに……かよ……」


「うん……油断しないでねセレスト」


「お前こそ。――死ぬのは許さないからな」


「もちろん」


 金級ゴールドテラスが相対する。

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